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「ときめきって何ですかね」
リビングに戻って来た森山君が言った。
「好きな人に胸がキュンってする事じゃないの?」
「春川さんは俺の事が好きなんですか?」
「えっ」
思いがけない質問が飛んで来た。
好きかどうか、キスをされてからずっと考えていた。
私には片思いの人がいて、それは森山君じゃない。
だけど、ラブホに行ったあの夜から気持ちが少し変わって来た。
「嫌いじゃないよ」
まあ、腹も立つけど。
「ズルい答えですね。あの夜もそう言ってましたよね」
「だって、まだハッキリした事はわからないから。でもね、森山君とキスするとときめくよ。多分、それぐらいには異性として好きなんだと思う」
「回りくどい言い方だ。こういう時はハッキリと言って欲しいのに」
「森山君こそ、私の事どう思ってるのよ?」
「それは……」
視線を逸らされる。
「やっぱりはぐらかすじゃない。性欲を満たすだけだって言えばいいのに」
「さっきは腹が立って、勢いでそう言ったんです」
意外な答えにまたびっくりする。
「なんで腹が立ったの?」
「自分でもよくわかりません。でも、春川さんの事は尊敬してますよ」
また思いがけない言葉が出て来た。
「一生懸命だし、トラブルがあっても投げだすような事は絶対にしないし、責任感の強い人だなって側にいて思います。そんな春川さんと一緒に仕事が出来て良かったって思ってます」
「それは、ありがとう」
照れくさい。誉められるとは思ってもみなかった。いつも働かせ過ぎてるから。
「女の下で働くのはやりづらいかと思ってた」
「有能な人の下だったら、男女関係ありませんよ」
「有能なのは森山君の方だよ。今回の事で頼りになるなって感心したもん」
「春川さん、キスしませんか?」
「えっ、なんでこの話の流れでそうなるの?」
「今、そんな気になったから」
「ダメよ。森山君のキスはグラッとするから。上手すぎるんだもん」
「グラッと来るんですか」
森山君が立ちあがって近づいて来た。不味い、余計な事を言った。
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