3話 缶詰になります。

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 たった二日で書いたものはやはり荒がある。  夏目さんからはダメ出しの連発だった。それを通常業務の傍らで、森山君と一緒に何度も何度も直した。  そして、その週の木曜日にようやくOKが出た。すぐにスタッフを集めてみんなにもプロットを読んでもらい、了承を得た。  これでようやくシナリオに取り掛かれる。  締め切りは3週間後。  かなりきつい。通常業務をしながらでは無理だった。  森山君の仕事を他のスタッフに振り分け、彼には執筆に専念してもらうしかない。  それは夏目さんもよくわかってくれていて、シナリオ執筆の為にホテルに一週間ほど缶詰めになってはどうかと提案をしてくれた。  費用は全部、会社持ちだと太っ腹な事まで言ってくれる。  新人ライターにとってありがたい申し出だ。  社長室を出て、すぐに森山君のデスクに行って夏目さんの話を伝えた。  森山君は頬杖をついたまま、こちらを見上げた。その表情は憂鬱そうだ。 「ホテルに一週間も閉じ込められるって事ですよね?」 「まあ、そうなるかな」  森山君がため息をついた。 「じゃあ、春川さんも道連れです」 「道連れって?」 「忘れたんですか?春川さんと一緒に書くのが絶対条件だって言ったでしょ。俺を缶詰めにするなら、春川さんも一緒じゃないと困ります」 「それはメールと電話でやり取りすれば済むよ」 「無理です。意見を聞きたい時に近くにいてくれないと困ります。ライターさんの書いたのを添削はしていますが、自分で書くのは初めてなんですよ。ガイド役がいないと書けません」 「決まってるプロットをシーンに起こしていくだけだから大丈夫よ。難しくはないって」 「だったら、春川さんが書けばいいじゃないですか。話の筋は決まってるんだから」 「またその話に戻るの?」 「一人では無理だと言ってるんです。春川さんがいないとプロット通りには書けませんよ」 「できるだけ様子は見に行くから」 「一緒に缶詰めになって下さい」 「えー!私も缶詰めになるのー!」 「シナリオが出来までは俺たちは運命共同体です」  森山君に睨まれる。眼鏡越しでも眼光に迫力があった。断ったら書かないと言いそうだ。  仕方ない。運命共同体として一緒にいるか。 「わかりました。缶詰めになります」
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