3話 缶詰になります。

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 金曜日に仕事の引継ぎをチーフディレクターの山本さんにして、土曜日から森山君と一緒にビジネスホテルに缶詰めになった。  客室を二つ借りた。シンプルな作りで、家具はシングルベッド、机、テレビ、ミニバーがあるぐらいで、後はユニットバスが付いてる。  自分の家より狭いけど、清潔感があって居心地はまあまあいい。  24時間対応のルームサービスもあるので、食事に困る事はない。洗濯もランドリーサービスに頼めるし、部屋の掃除もしてもらえる。  家事から解放されるのは嬉しい。シナリオに集中して取り組める環境はこれで手に入れた。  一週間もあれば8割は完成するだろう。上手くすれば最終話まで仕上がるかもしれない。  スーツケースをクローゼットに仕舞ってから、ノートパソコンを持って部屋を出た。  森山君の部屋は廊下を挟んだ向かい側だった。  インターホンを押すと、「はーい」という声がした。 「春川です」  すぐにドアが開いた。  森山君はジーパンに水色のTシャツ姿だった。  来た時はワイシャツとスラックスだったのに。 「着替えたの?」 「楽な服装の方が集中できるんで」 「なるほど」 「どうぞ」  森山君がドアを開けてくれた。こちらで作業する予定なので、私の所より広いツインルームで取ってる。  中に入ると、ラベンダーの香りがする。  机の上に火がついたアロマキャンドルがあった。 「アロマキャンドル持って来たの?」 「はい。ラベンダーの香りは集中できると聞いたので」  執筆する為の工夫をしている事に感心した。  私なんて特に何も用意して来なかった。 「いい香りね。何か落ち着く」  森山君が頷いた。 「実は落ち着き過ぎて、ちょっと眠くなってます。少し昼寝しませんか?」  森山君がベッドに横になった。 「来て早々、昼寝はないんじゃないの?」 「少しぐらいいいじゃないですか。働き過ぎで死にそうです。休日が全部飛びましたからね」 「それは悪いと思ってます」 「春川さんも来て下さい」  森山君がパンパンとベッドを叩いて誘った。
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