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金曜日に仕事の引継ぎをチーフディレクターの山本さんにして、土曜日から森山君と一緒にビジネスホテルに缶詰めになった。
客室を二つ借りた。シンプルな作りで、家具はシングルベッド、机、テレビ、ミニバーがあるぐらいで、後はユニットバスが付いてる。
自分の家より狭いけど、清潔感があって居心地はまあまあいい。
24時間対応のルームサービスもあるので、食事に困る事はない。洗濯もランドリーサービスに頼めるし、部屋の掃除もしてもらえる。
家事から解放されるのは嬉しい。シナリオに集中して取り組める環境はこれで手に入れた。
一週間もあれば8割は完成するだろう。上手くすれば最終話まで仕上がるかもしれない。
スーツケースをクローゼットに仕舞ってから、ノートパソコンを持って部屋を出た。
森山君の部屋は廊下を挟んだ向かい側だった。
インターホンを押すと、「はーい」という声がした。
「春川です」
すぐにドアが開いた。
森山君はジーパンに水色のTシャツ姿だった。
来た時はワイシャツとスラックスだったのに。
「着替えたの?」
「楽な服装の方が集中できるんで」
「なるほど」
「どうぞ」
森山君がドアを開けてくれた。こちらで作業する予定なので、私の所より広いツインルームで取ってる。
中に入ると、ラベンダーの香りがする。
机の上に火がついたアロマキャンドルがあった。
「アロマキャンドル持って来たの?」
「はい。ラベンダーの香りは集中できると聞いたので」
執筆する為の工夫をしている事に感心した。
私なんて特に何も用意して来なかった。
「いい香りね。何か落ち着く」
森山君が頷いた。
「実は落ち着き過ぎて、ちょっと眠くなってます。少し昼寝しませんか?」
森山君がベッドに横になった。
「来て早々、昼寝はないんじゃないの?」
「少しぐらいいいじゃないですか。働き過ぎで死にそうです。休日が全部飛びましたからね」
「それは悪いと思ってます」
「春川さんも来て下さい」
森山君がパンパンとベッドを叩いて誘った。
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