3話 缶詰になります。

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「森山君、お疲れ様でした」  夜10時。今日の執筆予定だった2話目が書き終わった。  ノートパソコンの電源を落として、立ち上がる。 「どこに行くんですか?」  疲れた顔をした森山君がノートパソコンを抱えた私を見上げた。 「帰るに決まってるでしょ」 「もう帰るんですか」 「明日は朝9時開始ね。それまでゆっくり休んで下さい」 「昼間のキスの続きは?」 「する訳ないでしょ」 「仕事終わりのキス、楽しみにしてたのにな」  人の心を揺らすような冗談はやめて欲しい。  こっちだって疲れてるんだから。 「私はあなたの彼女じゃありませんから」 「確かにそうですね。お疲れ様でした」  森山君の部屋を出て、向かい側の自分の部屋に帰った。  シングルベッドにゴロンと横になる。  そのまま靴を脱いで、手足を伸ばした。    解放感に浸る。    本当に疲れた。森山君に翻弄されっぱなしで。  一緒にいるとドキドキするし、顔も熱くなってくるし、まるで恋をしてるみたい。 「恋!」  自分の考えに驚いて起き上がった。 「いやいや、ないない。森山君に恋だなんて」  誰もいないのに、全力で否定をした。  そうしないといけない気がして。  疲れてるな。私。  再びゴロンとベッドに横になった。  もう余計な事は考えずに寝てしまおう。  明日もシナリオ書かないといけないし。  瞼が重くなってくる。  その重さに逆らうのをやめて、目を閉じた時、インターホンが鳴った。
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