3話 缶詰になります。

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 アイスを持ったまま鏡の前に座らされた。  ドライヤーは壁にくくりつけになっているので、この場所でしか使えなかった。 「アイス、冷凍庫に入れてきます」  私の手からアイスを取ると、森山君はバスルームから出て行き、すぐに戻って来た。 「じゃあ、始めましょうか」  森山君がドライヤーを持って、私の髪に熱風を当てた。  大きな手は風がよく当たるように、繊細に髪の間を動いていた。  美容師さんみたいに女の髪を扱うのが意外と上手だ。  もしかして、新井さんの栗色の髪にもやってあげてるの? 「彼女にもやってあげてるの?」  新井さんとの事を聞きたくて、遠回しに聞いた。 「え?何です?」  ドライヤーの音が大きいから聞こえないらしい。 「だから、彼女の髪もよく乾かしてるの?」  さっきよりも大きな声で訊ねた。 「その表現は少しおかしいですよ」 「どうおかしいの?」 「現在形ではなく、過去形で聞くべきです。今は彼女はいませんから。この場合、聞くなら『彼女の髪も乾かしてあげてたの?』です」 「現在形に過去形って英語の授業聞いてるみたい。細かいのね」 「言葉は大事ですから。人は些細な事ですれ違うんです。春川さん、何か俺に言いたい事があるんじゃないんですか?」 「えっ」 「由香ちゃんとの関係についてとか」  鏡越しに目が合ってドキッとした。
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