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すぐに目を逸らした。
こちらの心の中を見られてるみたいで、落ち着かない。
「何でそう思うの?」
「由香ちゃんの話になって、明らかに春川さんが不機嫌になりましたから」
「なってない」
「なってますよ。春川さんと三年も一緒に働いてるんですよ。表情の変化はよくわかるんです」
鏡越しに鋭い視線を向けられ、焦る。
「ホテルで一緒に缶詰めになる間柄なんですから、何かあるなら言って下さい。仕事に支障が出たら困ります」
それもそうかもしれない。この際、気になった事は言った方がいいかも。
「なんで新井さんは森山君の事を『涼君』って呼ぶの?付き合ってるの?」
鏡の中の森山君が瞬きをした。
「聞いてたんですか」
「聞こえたの。新井さんの声が大きいから」
「さっきの質問ですけどね。彼女の髪よりも、妹の髪をよく乾かしてたんですよ」
「妹さんがいるの?」
初耳だった。
「その妹が由香ちゃんと小中高で一緒だったんです」
森山君がニッコリと微笑む。
「それって、新井さんが妹さんの友達って事?」
「ええ。由香ちゃんはよく家にも遊びに来てて、俺も時々混ざってゲームとかしてました。その時から『涼君』と呼ばれているんです」
つまり幼なじみって事か。なるほど、それなら親しいのは当たり前だよね。
「だから由香ちゃんは彼女ではありません。彼女が俺に親し気なのは子どもの頃一緒に遊んだ仲だからです。大学卒業後に彼女はいないって言ったはずですよ。俺が信じられませんか?葵さん」
えっ、今、葵って、私の下の名前で呼んだの!
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