3話 缶詰になります。

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「な、なんで下の名前?」 「葵さんがやきもち焼いてるから」  また葵って呼ばれた。たったそれだけの事で耳が熱い。 「だから妬いてないって」 「涼君って呼びたかったら、どうぞ呼んで下さい」  余裕たっぷりな笑顔がムカつく。  新井さんと同じ呼び方で呼ぶのは嫌って言ったら、やっぱり嫉妬してるって思われるのかな。 「呼びません。森山君も私の事は苗字で呼んで下さい。私たちはお友達でも、恋人でもないんですから」  そう否定しながら、私たちの関係は何だろうと考える。  会社の同僚というくくり以上に親しい間柄な気もする。こうして今、髪の毛も乾かしてもらってるし。 「素直じゃないな。嬉しいくせに」  「嬉しくなんかないです」  本当は名前で呼んでもらえて、ちょっぴり嬉しい。でも、喜んでる事を知られたくない。知られたら、いじめられそうだから。 「葵さんって、ツンデレキャラですよね」  森山君の声で聞く葵って言葉が優しく聞こえる。  大事に呼んでくれてる気がして、舞い上がりそうになる。 「葵じゃなくて、春川です」 「はいはい。春川さん。出来ましたよ」  森山君がドライヤーを止めた。  森山君の顔がすぐ近くにあって、心臓が飛び出そうになった。 「これぐらい乾かさないとダメですよ」  さらに私の顔を覗き込む。  至近距離で目が合って思わず身を逸らした。 「キスすると思った?」  森山君が意地悪く囁いた。  その通り。キスされるかと思った。 「そんな事思ってない」 「俺はしたいと思ったけど」  また爆弾を放り投げて来た。  心臓に悪い事を平気で言う。  絶対にからかわれてる。こっちの反応を見て楽しんでるんだ。
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