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「な、なんで下の名前?」
「葵さんがやきもち焼いてるから」
また葵って呼ばれた。たったそれだけの事で耳が熱い。
「だから妬いてないって」
「涼君って呼びたかったら、どうぞ呼んで下さい」
余裕たっぷりな笑顔がムカつく。
新井さんと同じ呼び方で呼ぶのは嫌って言ったら、やっぱり嫉妬してるって思われるのかな。
「呼びません。森山君も私の事は苗字で呼んで下さい。私たちはお友達でも、恋人でもないんですから」
そう否定しながら、私たちの関係は何だろうと考える。
会社の同僚というくくり以上に親しい間柄な気もする。こうして今、髪の毛も乾かしてもらってるし。
「素直じゃないな。嬉しいくせに」
「嬉しくなんかないです」
本当は名前で呼んでもらえて、ちょっぴり嬉しい。でも、喜んでる事を知られたくない。知られたら、いじめられそうだから。
「葵さんって、ツンデレキャラですよね」
森山君の声で聞く葵って言葉が優しく聞こえる。
大事に呼んでくれてる気がして、舞い上がりそうになる。
「葵じゃなくて、春川です」
「はいはい。春川さん。出来ましたよ」
森山君がドライヤーを止めた。
森山君の顔がすぐ近くにあって、心臓が飛び出そうになった。
「これぐらい乾かさないとダメですよ」
さらに私の顔を覗き込む。
至近距離で目が合って思わず身を逸らした。
「キスすると思った?」
森山君が意地悪く囁いた。
その通り。キスされるかと思った。
「そんな事思ってない」
「俺はしたいと思ったけど」
また爆弾を放り投げて来た。
心臓に悪い事を平気で言う。
絶対にからかわれてる。こっちの反応を見て楽しんでるんだ。
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