3話 缶詰になります。

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 森山君がバスルームを出て行く。  私もその後を追った。  部屋に行くと、森山君は冷凍庫から自分の分のアイスを取り出してた。  その様子を見ていると、振り向いた森山君とバッチリ目が合った。眼鏡越しの瞳が少しだけ笑った気がする。その表情が何だか優しい。 「俺って意地が悪いですか?」 「悪いと思う」 「女の子からは優しいって言われるんですけどね」 「優しい所もあると思うけど」 「どんな所?」 「アイスを買って来てくれる所とか」  嬉しそうに森山君が微笑んだ。その笑顔が可愛くて、不覚にもキュンとする。そんなにいい顔見せないでよ。ときめくじゃない。 「夜分にお邪魔しました。明日もよろしくお願いします。春川さん」  春川さんに戻った。なんだろう、ちょっと寂しい。  葵さん呼びOKすれば良かったかな。  でも、これでいいのよ。森山君とは仕事の関係なんだから。それ以上になる気なんてないんだから。 「うん。明日もよろしくお願いします」  森山君が部屋を出て行った。  一人になって気が抜ける。  冷凍庫から続きのアイスを出してベッドに座った。  バニラの甘さと冷たさが火照った頭を冷ましてくれる。  最近、森山君に心が揺れてるな。なんで揺れてるんだろう。私が好きなのは夏目さんなのに。気づくと森山君の事ばかり考えてる。今だって……。    もやもやするな。この缶詰め生活が終わったら、森山君へのもやもやが少しはわかるようになるのかな。
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