4話 缶詰2日目 恋人代用品。

5/18
773人が本棚に入れています
本棚に追加
/207ページ
 いきなりの衝撃に倒れそうになると、森山君が支えてくれた。  足元にバレーボールらしき物が転がってる。 「葵さん、大丈夫?」  森山君が心配そうに私の顔を正面から覗き込んだ。近い距離にドキッ。 「う、うん。一人で立てるから」  森山君の手から離れて、ボールを拾いあげた。  これが背中に当たったのか。ちょっと痛かった。 「すみません」  子どもの声がした。男の子がこっちに向かって走って来た。  ボールの持ち主かな。 「あの、ぶつけちゃって、ごめんなさい」  小学生ぐらいの男の子が近くで立ち止まった。 「お前か。ボール投げたのは」  森山君が険しい表情で子どもを睨む。 「ここは歩道だぞ。ボール投げする場所じゃないだろ」 「ごめんなさい」  キュッと子どもが唇を噛みしめた。  今にも泣きそう。 「森山君、まあ、いいじゃない。ちょっと当たっただけだから」  手に持っていたボールを男の子に差し出した。 「これ、君の?」 「はい」 「歩道でボール投げはダメよ。赤ちゃんとかに当たったら大変だから」  周りにはベビーカーを引いて歩く家族連れの姿もあった。 「はい。ごめんなさい」  不安げに眉毛を八の字に下げて、ちょっと可愛い。 「ボールどうぞ」  男の子に渡してあげた。 「ゆうまー」  少し離れた所から男性の声がした。 「お父さーん」  男の子が答えた。  父親も一緒だったようだ。  私たちの姿を見つけると、父親が慌てたようにこちらへ走って来た。 「すみません。うちの子が何かご迷惑をおかけしましたか?」  申し訳なさそうに父親がこっちを見た。  その顔を見て、息が止まった。  大学時代につき合っていた彼だった。  
/207ページ

最初のコメントを投稿しよう!