4話 缶詰2日目 恋人代用品。

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真人(まさと)……」  思わず、付き合ってた頃の呼び名が出た。男の子の隣に立つ、真人が目を丸くして、考えるように瞳を動かした。 「葵か」 「うん」 「懐かしいなー。卒業以来だから十年ぶりか」  真人が親し気な笑みを浮かべた。キラキラした笑顔からは自信を感じる。  昔はちょっと頼りない感じだったのに今はそんな風には見えない。 「十年ぶりだね」 「葵、変わらないなー」 「真人はちょっと引き締まった?」 「筋トレしてるからな」  照れくさそうに真人が笑った。  酷い別れ方をしたのに穏やかに話していた。だけど、忘れていた真っ黒な気持ちが蘇る。 「お宅の息子さんが葵にボールをぶつけたんです」  森山君が口を挟んだ。  葵って呼ばれてドキっとする。 「それは申し訳ない。怪我はない?」  真人が心配そうに黒眉を寄せた。 「大丈夫だから気にしないで」 「ゆうま、ボール投げちゃダメだって言っただろう」  真人が屈んでゆうま君に言い聞かせた。  そうか。この子は真人の子どもなのか……。という事はあの時の……。 「ゆうま君。こんにちは。私はお父さんの友達だよ」  ゆうま君がさっきよりも警戒心を解いた表情を浮かべてこっちを見上げた。  切れ長の目元が真人に似てる。 「今、いくつかな?」 「10才」 「そっか」  あの時の子だと思ったら、胸が締め付けられた。  私はこの子がお腹にいた時から存在を知ってる。  真人の方を見ると、気まずそうな表情を浮かべていた。 「すっかりお父さんだね」 「まあな。卒業後すぐに結婚したんだ。下にもう一人、生意気なのがいる」 「お子さん二人もいるんだ。幸せそうで良かった」 「葵は幸せか?」  言葉に詰まる。  幸せだって言って真人を安心させるべきなのに、指先が震えて言葉が出てこない。 「俺たち、結婚するんです」  森山君の言葉にびっくりした。 「では、急ぎますので」  森山君が真人にお辞儀をして、それから「葵」と呼んで、私の手を握った。 「行こう」  森山君が歩き出した。  強く手を引っ張られる。その力強さがカッコイイ。お姫様を守るナイトみたいで。  
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