4話 缶詰2日目 恋人代用品。

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「森山君、ありがとう」  歩きながらあの場から助け出してくれた事のお礼を口にした。 「何がです?」 「彼の前から連れ去ってくれた事。実はあの人、大学時代につき合っていた彼氏なの。十年会わなかったのに、こんな所で会うとは思わなかった」 「さっきの子、10才なんですね」  森山君が独り言のように呟いた。 「あ、すみません。余計な事を言いました」  申し訳なさそうな目と合った。 「いいのよ。私、二股されてたの。それでもう一人の彼女が妊娠しちゃったから別れたの」  森山君が立ち止まった。 「葵さん、泣きそうな顔してますよ」  心配するような瞳とぶつかった。 「そんな事ないよ。十年経ってるのよ。もう何とも思ってないから」  笑顔を作ろうとしたら、顔が強張った。  胸が苦しい。あの時と同じように胸が締め付けられる。 「私、どうしたんだろう」  熱い感情の塊が込みあがって、目元を濡らした。  森山君の前なのに。こんな情けない所見せたくないのに。  傷ついた気持ちを思い出して、涙が止まらない。 「葵さん、俺がいますから」  森山君の力強い腕が抱きしめてくれた。  安心する温もりだった。
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