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「森山君、ありがとう」
歩きながらあの場から助け出してくれた事のお礼を口にした。
「何がです?」
「彼の前から連れ去ってくれた事。実はあの人、大学時代につき合っていた彼氏なの。十年会わなかったのに、こんな所で会うとは思わなかった」
「さっきの子、10才なんですね」
森山君が独り言のように呟いた。
「あ、すみません。余計な事を言いました」
申し訳なさそうな目と合った。
「いいのよ。私、二股されてたの。それでもう一人の彼女が妊娠しちゃったから別れたの」
森山君が立ち止まった。
「葵さん、泣きそうな顔してますよ」
心配するような瞳とぶつかった。
「そんな事ないよ。十年経ってるのよ。もう何とも思ってないから」
笑顔を作ろうとしたら、顔が強張った。
胸が苦しい。あの時と同じように胸が締め付けられる。
「私、どうしたんだろう」
熱い感情の塊が込みあがって、目元を濡らした。
森山君の前なのに。こんな情けない所見せたくないのに。
傷ついた気持ちを思い出して、涙が止まらない。
「葵さん、俺がいますから」
森山君の力強い腕が抱きしめてくれた。
安心する温もりだった。
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