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泣いた後はまた公園の中を歩いた。
フワフワの落ち葉の上で鬼ごっこをしたり、黄金色に染まったイチョウの葉を拾って、森山君と恋人みたいにじゃれあって楽しんだ。
おかげで真人に会ってグラグラになっていた気持ちは落ち着いた。
スキップしたいぐらいわくわくしながら、さらに歩みを進めると、赤い煉瓦の四角い建物が目につく。
青銅色の看板には区立図書館と年季の入った文字が刻まれている。
そしてその前には『白猫カフェ』と白字で書いてある焦げ茶色ののぼりが出てた。
「森山君、お腹すかない?」
メニューが載った看板も出ていて、見ていたらぐうーっとお腹の奥が鳴りそうになる。
「もう12時か。確かに何か食べたいですね」
森山君が腕時計を見ながら言った。
「ここでランチして行こうよ」
「いいですよ」
森山君の手を取って建物の中に入った。
正面には螺旋階段があって、カフェは地下一階にあるという案内が出ていた。
階段を降りると、コーヒーの香りがフロア中に漂っている。
「コーヒーの香りって安心しますね」
森山君が言った。
「私もこの香り好き」
すぅーと吸い込むと香ばしい匂いで鼻の中がいっぱいになる。
うーん、疲れが取れそう。
「葵さんの香りもほっとしますけど」
森山君が屈んで、いきなり鼻先を私の首にくっつけて、くんくんし出した。
「森山君、くすぐったい」
「俺、こうやって匂い嗅ぐの好きなんです」
「歩いたから汗臭いよ」
「いい香りしかしません」
耳元でクスクス笑う森山君の声が響いて、距離の近さを意識してしまう。
「もうっ、お店の前でやめて。恥ずかしいでしょ」
すぐ目の前に白猫カフェがあった。お店の窓から私の首筋に鼻をあてている森山君の姿が見える訳で、中にいる人たちは私たちをバカップルだと呆れてるだろう。
「葵さんは人前でいちゃいちゃするのはダメなんですか?」
森山君がようやく離れて首を傾げてこっちを見下ろした。
「当たり前でしょう。いい年して恥ずかしい」
「俺は恥ずかしがる葵さんを見るのが好きなんですけどね」
ニッと意地悪く微笑んだ口元を見て、森山君にだったらいじめられるのもいいと思ってしまう。
こういうのマゾっ気って言うのかしら。
そう思った瞬間、顔が熱くなった。
何て事を考えてるんだろう、私。
「変な事言ってないで、行くわよ」
熱くなった頬に気づかれないようにカフェに入った。
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