4話 缶詰2日目 恋人代用品。

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 年季の入ってそうなガラスドアを開けると、チリンとドアベルが涼し気な音で鳴った。  何だか風流。お店の雰囲気もカフェというよりは喫茶店という感じで、昭和の時代からやっていそう。  白い髭の生えたマスターが出迎えてくれるかと思ったけど、出て来たのは大学生ぐらいの、蝶ネクタイがあまり似合っていないウェイターだった。 「どうぞこちらへ」と連れて行かれたのは入口から一番奥にあるテーブル席。  焦げ茶色の長方形のテーブルの周りには赤い椅子が四脚並んでた。  森山君が入口に近い方の席に腰を下ろし、それに合わせて奥の席に座った。  上座と下座を森山君は意識している。必ず相手に敬意を表すように自分が下座の位置に座ってる。  前の会社でかなり仕込まれたという話は森山君が中途採用で入って来た年に聞かせてもらった。  ふと、そんな事を思い出して、森山君の顔を見て口元が緩んだ。 「葵さん、何ですか?」    メニューを見ていたと思いきや、こちらの変化にすぐに反応された。 「何でもない。何にしようかな」  メニューを見ると、ハンバーグ、オムライス、ナポリタンの文字が目に留まる。  この間、ファミレスで森山君がハンバーグを食べていた事が浮かんだ。 「俺、ハンバーグにしようかな」  呟いた一言に、好物はハンバーグなんだなと確信した。 「何ですか?」  また口元が緩んでいたのか、半笑いの表情で森山君がこっちを見た。 「別に」 「気になります。そんな含み笑いされたら」 「私もハンバーグが好きだから、好物が一緒だと思っただけよ」  ふわっと森山君の頬が緩んで、嬉しそうな顔をした。 「どうして好物だってわかったんですか?」 「それは秘密」  クスクス笑いながら、甘い気持ちに浸る。  何気ない恋人との会話が楽しかった事を思い出した。  邪魔にならない音量でかかるBGMのピアノの音色も、店内に広がる香ばしいコーヒーの香りも恋人と過ごす完璧なシチュエーションに思えた。  こういうお店でデートをするのはいい。何時間でもいられそう。  シナリオがあるから長居は出来ないけど。
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