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緊張しながら電話に出ると、夏目さんの優しい声がした。
「春川、お疲れ。シナリオはどうだ?」
「お疲れ様です。予定通りに進んでます」
「それは良かった。ところで今夜、春川と森山君を夕飯に誘いたいんだが、都合はどうだ?」
ご飯に誘ってくれるなんて嬉しい。外で食べる予定だったし、いいかもしれない。
「夏目さんのおごりですか」
「もちろん。君たちには頑張ってもらってるからな。何でもいいぞ。好きな物を食わせてやる」
「わかりました。森山君と相談してみます」
電話を切って、隣でキーボードを叩いている森山君を見た。
「電話、夏目さん?」
「うん。夏目さんが夕飯ごちそうしてくれるって」
森山君も喜ぶと思ったら、一瞬険しい表情を浮かべた。
「そうですか」
「ねえ、何が食べたい?焼肉?ステーキ?それともお寿司?」
「俺はいいですよ。春川さんだけ行って来て下さい」
“春川さん”って呼び名に距離を感じる。今日はずっと葵さんって呼んでくれてたのに。
「遠慮しなくていいよ。行こうよ。どうせ外で食べる予定だったし」
「予定に夏目さんは入っていませんでしたから」
もしかして私とデートがしたかったの?
「三人でデートも楽しいよ」
「デートとは言いません。食事会です」
「食事会もいいじゃない。せっかく夏目さんが声かけてくれたんだし。きっと高いお店連れて行ってくれるよ。こんな機会中々ないし」
「春川さん、嬉しそうですね」
「だって夏目さんと森山君とご飯だって思ったらウキウキするもの」
「春川さん」
森山君が静かに言った。
「何?」
「思うんですけど、恋愛の傷は新しい恋愛をしないと治らないと思うんです」
「新しい恋愛?」
「上書きする事で古い恋は忘れるって事です」
「何が言いたいの?」
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