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「では、行ってらっしゃい」
長いキスが終わると、森山君がそう言った。
その言葉に恋人の代用品でしかない事がハッキリとわかる。
森山君には片思いの人がいて、私にも夏目さんがいて……。
私たちの心には違う相手がいる。
だから代用品がちょうどいいんだ。
そう思うけど、寂しい。
キスはするのに、心がないなんて。
どうして森山君は好きな人がいるのに私にキスできるの?
「春川さん、どうしたんですか?」
唇を結んで、黙っていると心配そうに聞かれた。
「恋人の代用品だから私にキスするの?」
眼鏡のない瞳が困ったように動いた。
「キス、嫌でした?」
「そうじゃないんだけど。好きな人がいるのに私にキス出来るのが信じられないって思って」
「同じ言葉、春川さんにお返ししますよ。これから夏目さんに会うのに、キスに同意しましたよね」
それを言われては立つ瀬がない。
「そうだけど……」
でも、やっぱりこんな関係矛盾してる。
そう言いたいのに言葉が出てこない。
「好きな人に振り向いてもらえない寂しさを俺たちは埋めあえる関係だと思ったから、代用品の提案をしたんです」
「寂しさを埋める?」
「一人でいるのは寂しいと思いませんか?」
じっと見つめられ息が止まった。
こちらを向く黒い瞳は本当に寂しそうで、氷の世界に一人で住んでるみたいだった。
何がそこまで森山君を追い詰めるんだろう。
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