4話 缶詰2日目 恋人代用品。

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「そんなに困った顔しないで下さい」  森山君が微笑んだ。 「森山君は寂しいの?」 「時々無性に寂しい時があります。でも、今日春川さんと恋人ごっこをして楽しかった」 「恋人ごっこ……」  本物じゃない事を突き付けられて、悲しくなる。  なんで悲しいんだろう。  シナリオを書く為の割り切った関係である事はわかってるのに。 「恋人ごっこ止めた方がいいですか?」 「シナリオを書く為に必要なんでしょ?」 「はい」 「じゃあ、続けるしかないじゃない」 「春川さんの負担にならないように、この缶詰生活が終わるまでにはシナリオを書きあげますから」  ホテル生活が終わったら、この歪んだ関係も解消されるのか。  一日も早くそうなって欲しい。  だけど、一日でも長く森山君の側にもいたい。  今日、恋人として過ごした時間は心から楽しかったから。  森山君の事、本当の恋人みたいに思えたから。  矛盾した思いが苦しい。  夏目さんを好きなのに森山君といる事を望んでる。  どうしちゃったんだろう、私。  自分の気持ちがわからない。 「春川さん、眉間に皺が寄ってますよ」  クスクスっと眼鏡をかけた森山君が笑った。 「そんな顔、夏目さんに見せたらダメですよ。春川さんは笑顔が一番可愛いんですから、笑ってるんですよ」 「うん、じゃあ今日はこれでお疲れ様」 「お疲れ様でした」  森山君の部屋を出て自分の部屋に戻ってから夏目さんに電話をした。  大好きな夏目さんと話しながら、森山君の事を考えていた。  こんな事今まで一度もなかったのに。  どうして森山君の事が気になるんだろう……。
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