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「シナリオ、もう8話に入ったの?」
ノートパソコンに表示された原稿を見て驚いた。もう7話までが終わってる。昨夜は5話の終わりで切り上げたはずだったのに。
「もしかして、私が出掛けた後もずっと書いてたの?」
そうじゃなきゃここまで進まない。
森山君が気まずそうに黒縁眼鏡の奥の瞳を動かして、微苦笑した。
「他にやる事がありませんでしたから」
「どこにも行かなかったの?」
「なんか面倒くさくなってしまって。それに一日も早く終わらせたかったので。春川さんだってこんな生活から解放されたいでしょ?」
「うん、まあ、そうだけど……」
ごにょごにょと声が小さくなる。
終わらせたいと思う一方で、一日も長く森山君のそばにいたい。
「何ですか?」
小さな私の独り言に眼鏡の奥の瞳が今度は興味深そうにこっちを向いた。
目が合ってしまい、気まずさからすぐに逸らした。
「いえ、何でもありません」
「そう言われると気になります」
触れて欲しくない事がわかるセンサーでも持ってるのか、追及の手を緩めてくれない。
「だから何でもないって」
顔が熱い。なんで朝からこんなに追い詰められるんだろう。
「葵さん、頬が赤いですよ」
恋人モードに入った森山君が距離を詰め、大きな手で包むように頬に触れた。触れた所が心臓になったみたいにドキドキしている。
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