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目の前には森山君の顔があって、直視できない。私はなんでこんなに狼狽えているんだろう。
夏目さんと二人きりでいた時よりも、今の方が感情が揺さぶられてる。
シナリオが終わって、缶詰生活が終わるのがちょっと寂しいと思っただけ。
たった一言そう言えればいいのに、そんな事を言ったら引かれてしまう気がして、死んでも言えない。
このねじ曲がった気持ちは一体なんだろう。自分の気持ちを隠したいけど、気づいてもらいたいようなこの気持ちは……。
目が合うと、眼鏡の奥の瞳が優しく微笑んだ気がした。
「昼には戻って来ますから、ランチは一緒に取りましょう」
その言葉にテンションが上がった。
「うん。また昨日の『白猫カフェ』行きたい」
すっかりお気に入りの店になった。
「いいですよ。尋問の続きはその時に」
猫を撫でるみたいに優しく頭をまた撫でてくれた。
「だから、何でもないって」
撫でられたのが嬉しいけど、そういう気持ちはやっぱり隠したい。
だからちょっとだけ、不愉快な表情を浮かべた。
「夏目さんとの夜、楽しめました?」
私から離れて、鞄に荷物をまとめながら森山君が言った。
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