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「うん、まあ、それなりに」
急に夏目さんの名前が出て来て緊張する。
「何を食べさせてもらったんですか?」
「銀座でお寿司」
「春川さん、お寿司好きですもんね」
なんで知ってるんだろう?森山君とお寿司を食べに行った事はないのに。
「夏目さんに告白はできましたか?」
軽い調子で言われた言葉にズキッと胸が痛くなった。
「できるわけないでしょ」
アハハと森山君が冗談に笑うように笑った。
その笑い声が胸に突き刺さって痛い。
森山君はやっぱり私の事なんて、何とも思ってないんだ。
少しでも恋愛感情があったら、そんな事聞けないし、笑えないよ。
シナリオを書く為だけの恋人関係なのに、私の方が本気になりかけてる。
本当に好きになったらダメだ。この気持ち、すぐに引っ込めなきゃ。
「そろそろ行きますね」
支度の出来た森山君がこっちを振り向いた。
平常の森山君の表情をしていた。
動揺してるのは私だけ。
「森山君が帰ってくるまでには原稿のチェックしておくから」
「よろしくお願いします。では、行ってきます」
鞄を持って森山君は部屋を出て行った。
閉まったドアを見てため息がこぼれた。
本気になっちゃダメ。
もう一度、そう自分に言い聞かせて仕事にとりかかった。
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