5話 缶詰3日目 傘の人。

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「うん、まあ、それなりに」  急に夏目さんの名前が出て来て緊張する。 「何を食べさせてもらったんですか?」 「銀座でお寿司」 「春川さん、お寿司好きですもんね」  なんで知ってるんだろう?森山君とお寿司を食べに行った事はないのに。   「夏目さんに告白はできましたか?」  軽い調子で言われた言葉にズキッと胸が痛くなった。 「できるわけないでしょ」  アハハと森山君が冗談に笑うように笑った。  その笑い声が胸に突き刺さって痛い。  森山君はやっぱり私の事なんて、何とも思ってないんだ。  少しでも恋愛感情があったら、そんな事聞けないし、笑えないよ。  シナリオを書く為だけの恋人関係なのに、私の方が本気になりかけてる。  本当に好きになったらダメだ。この気持ち、すぐに引っ込めなきゃ。 「そろそろ行きますね」  支度の出来た森山君がこっちを振り向いた。  平常の森山君の表情をしていた。  動揺してるのは私だけ。 「森山君が帰ってくるまでには原稿のチェックしておくから」 「よろしくお願いします。では、行ってきます」  鞄を持って森山君は部屋を出て行った。  閉まったドアを見てため息がこぼれた。  本気になっちゃダメ。  もう一度、そう自分に言い聞かせて仕事にとりかかった。
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