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志原役道、1
親友、成世創記を初めて目にした時のことはおぼろげだが、確かに憶えている点がある。幼稚園の先生に連れられ、大勢の園児が座る前に立たされてなお、親友は遠くを見つめており、その瞳が深い穴のように黒かったということだ。
「すいせん組のあたらしいお友だちです。おなまえ、いえるかな?」
先生の言葉に、親友は何も言わなかった。長い沈黙の後、先生が諦めて「なるせそうきくんです、仲良くしてあげてね」と名前を紹介すると、ぱちぱちと子供たちが拙い拍手をした。教室に差し掛かる陽光を浴びても、親友の目は不自然なまでに真黒だった。
幼稚園では毎朝お祈りをした。園児に配られる数珠は皆お揃いのもので、連なっている玉の意味も教わったが、果たして四、五歳の子供に理解できるものだろうか。理解できずとも俺たちは言われるがまま祈る。これが日常の一部だったので、疑問に思うこともなかった。
だが、創記は違った。講堂が見下ろせる幼稚園の二階で、創記と俺は話をしていた。いつから仲良くなったかは憶えていない。その時も、まだ友達とは言えなかったかもしれない。
「なんでみんなこうやってやるの」創記は両の手を合わせる。「前の幼稚園ではやらなかったよ」
「そうなの?」
「うん。でも」
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