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 あの日は格別に蒸し蒸しとしていた。急に気温が上がったが、間もなく訪れる夏への最後の抵抗のように、雲が空一面を覆っていた。  誰もいない私の家の、五畳半の部屋に、初めて男を連れ込んだ。薄暗く湿気た室内で、静かに静かにキスをした。忌むべきことをしているのが誰にも見つからないよう、息を潜めながら。吐息が肌に触れ、今までにない振動を感じた。創記の舌は甘くてとろりとしていた。  疚しさも恥じらいも、制服と一緒に脱ぎ捨てていった。しかし緊張が緩和されるわけではなく、むしろ高まり、互いに変なところを見つめながら黙っていた。私がベッドに寝て彼を待った時、創記の手が止まった。  彼の目はひどく怯えていた。不安に揺らぐ瞳を覗き込み、どうしたの、と問いかけると、創記は目を伏せ、しばらく俯いてしまった。  私は冷や汗が滲む創記の頬を撫で、大丈夫、大丈夫だから、と何度も言った。言えば言うほど、焦燥と情けなさに相手の顔は歪むようだった。それから彼が私の中へ入り込む時も、最中も、創記はずっと痛くないかと聞いてきた。私はその度、よく分からない感触に唸りながらもこくこくと頷いていた。  終わってからも、創記は後ろから私を抱き締めながら「どこも痛んでない?」と聞いた。散々身体に触れたくせ、その手にはまだ硝子細工を扱うような躊躇いがある。私は寝転がったまま体勢を変え、少しきつめの口調で「あのね、私、そんなに脆くないよ」と答えた。そして彼の胸に頭を埋めて甘えた。創記は高校生らしくない、せつない微笑み方をした。
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