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無遠慮にカーテンを開ける。ほとんど闇の中だった創記の部屋に日光が射し込む。とはいえ、この部屋は向かいに建つマンションの日陰になっているので、どうしても常に薄暗い。
それでもベッドで死人のように倒れている創記にとっては、光がすこぶる不快なようだ。彼は目を瞑ったまま顔を顰めた。
「……眩しい」
「そりゃ眩しいよ。だって昼だもの」
私はせっせと買ってきた惣菜を温め始める。あの夜から二週間、この部屋には数日に一度のペースで通うようになっていた。最初に訪れた時にはもう、創記は私に対して諦めており、「勝手にすれば」と面倒くさそうに頭を掻いた。隅でぼうっと煙草を咥えているだけの哀しい男。この男の部屋を邪魔して食べ物だけ置いて帰るという行為は、どこか供犠にも似ている。
ただ私は、死人を相手にしているのではない。相手を死なせないために行っていることだ。
窓を開けると爽やかな五月の風と共に、砂埃が舞い込んできて息を詰まらせた。ベランダが、驚くほど汚い。本来白いはずの手すりも床も埃で色が淀み、何もかも放置されてどす黒い。
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