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 私はその荒んだベランダと、彼の棲む部屋とを見比べた。部屋は物が少なく廃墟のような寂しさがあるものの、不潔ではない。ある程度は掃除していることがうかがえる。しかし目の前のベランダは……掃除どころか、足を踏み入れていない。これまた埃をかぶったサンダルが落ちているだけで、他に何も置いていないのだ。 「ねえ、ちょっと」私は思わず創記に話しかけたが、返事はない。窓から背いて寝てしまっている。 「ベランダには出ないの?」  そら寝だ、とすぐに分かった。すっかり目を醒ましている気配がある。電子レンジが調理の完了を知らせる。窓を閉め、私は不吉な空気を遮断した。  創記を無理やり起こし、料理を挟んで向かい合う。彼は少しずつだが、私の用意したものを食べるようになっていた。魚をつつきながら私は当たり前の調子で聞く。 「ベランダ、掃除していい?」  創記は怒りと苦悩の混じり合う微妙な顔つきで「いや……いいって」と拒否した。ぶっきらぼうな言い方に、私は余計つんと澄ましてしまう。 「あんなに汚くしてたらまずいでしょ。今度、準備して掃除しに来るから」  言い終わるか終わらないかのうちに創記が小さくため息を漏らした。行儀悪く箸を持ったままテーブルに肘をつき、がっくりと項垂れる。こういう様子ばかり見ていると、彼を弱らせているのは私なのではないかという気にさせられるが、ここで退いてはだめだ。態度を崩してはならない。
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