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突拍子もない問いかけだったが、幸守は真面目な表情で答えた。
「・・・いや、驚かない」
「え、驚かないの? どうして?」
「だって、美雅さんは嘘をつくような人ではないから」
あまりにも真剣な眼差し。 初めて明かした自分の秘密を受け入れてくれたことが嬉しかった。 そもそも美雅自身、何故幸守に話そうと思ったのか分かっていない。
これまで本当の自分と共に隠し続けてきた秘密、もしかしたら生涯誰にも言わずに終わるかもしれないと思っていたのに。
「私の前世はね、まるでゴミ山の廃棄物みたいな人生だった」
「それ、聞いてもいい?」
「うん。 何故か話したいと思っているから」
そこで先程思い出していた過去を全て話した。 苦々しい前世の記憶。 現世の記憶は忘れることができるのに、前世の記憶だけは決して薄れることがない。
まるで呪いのようにこびり付き、美雅を苦しめ続けていた記憶。
「小さい頃はいじめられるし、ようやく好きな人と付き合えたと思ったらその人は裏社会で働いていた。 しかもその人は、小さい頃私をいじめていた男の子たちと繋がっていた。
家族ができたと思っても、子供を失って旦那さんも失った。 酷いよね、こんなのって」
「・・・それで、美雅さんはどうしたの?」
「川に身を投げた。 希望を見出すことができなかったから」
「・・・」
「前世の記憶は生まれ変わった赤ちゃんの時にすら蘇り“もう同じ思いはしたくない、生きたくない”って泣き叫ばせた。 そこでぷっつりと記憶が消えているのは、多分私が赤ちゃんだったからだと思う。
脳が、身体が、耐えられなかったんじゃないかな」
それを聞き、幸守はフォローするよう言った。
「いやでも、美雅さんは今の人生、幸せだろう? いつもたくさんの友達に囲まれているし、男子からも凄くモテるし。 恵まれているじゃないか」
やはりそういう風に見られていたと思うと少し安心してしまった。 だが同時に寂しかった。
「うん、そうだよ。 私は今、とても幸せ。 だからね、逆に怖いの」
「怖い?」
「そう。 本当に、今生きていることがとても幸せ。 生まれてきてよかったとも思っている。 ・・・だけどね、いつか全てが壊れるんじゃないかって思うと、凄く怖いんだ」
「前世のように?」
その問いに頷いた。
「・・・そっか。 だから美雅さんは泣きそうになっていたのか」
「どうして私が、辛い思いをしているって分かったの?」
「美雅さんはいつも笑顔を見せてくれる人だけど、ふと見せる切ない顔を憶えていたから」
「そんなに私のことを見ていたんだ」
「あ、いや、違ッ・・・」
「ふふ」
少しからかっただけなのに幸守は顔を真っ赤にした。 幸守は照れを隠すように言う。
「美雅さんはどうして泣かないの? 辛いなら、泣いてもいいんだよ」
「・・・うん、分かってる。 でもね、泣くのも怖いんだ。 周りに心配させて、楽しくて幸せな日常が壊れてしまうかもしれないから」
それを聞き、幸守は考えた風を見せたが意を決したかのように言った。
「じゃ、じゃあ、僕の目の前でだけも泣いてよ」
「・・・え? いや、でも」
「美雅さんは辛い前世のこと、僕に話してくれたよね? だったらもう何も隠す必要がない」
「そうだけど・・・」
「どうして僕には話してくれたの?」
「どうしてだろう。 君になら、話してもいいかなって自然と思えたんだ」
「だったら僕の前でだけ素直になってよ。 ・・・僕はもう、君が強がっているのを知っているから」
「ッ・・・」
美雅はついに涙が堪え切れなくなり大きな声を出して泣いた。 その間幸守はずっと美雅の背中をさすり隣にいてくれた。 それからしばらくして涙が止まると、美雅は立ち上がり太陽を背にして笑った。
「今日はありがとう。 気持ちがとてもスッキリした。 ・・・ねぇ、泣きたくなったらまた君に頼ってもいい?」
「もちろんだよ」
「ありがとう、幸守くん」
礼を言うと、美雅は屋上から一人立ち去った。 幸守には見えなかったが、憑き物が取れたような表情をしていただろう。
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