Alice

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「そうですか。ところで私は何処に居るのですか?」 「それは無意味な質問だねアリス」 猫は私ではない名前で私を呼ぶと、身軽に蓋に飛び乗った。 「何処なんて聞くもんじゃない。これは君の中だ。」 「・・・私?私はここに居ますが」 「夢ならどんな不可解なことも可能にできるのさ。」 猫は身を屈めて私の顔を見た。 「ウサギだって  ドードーだって  スミレだって  猫だって  みんなみんな君なんだ。君以外の何者でもない。君の中で我々は生まれた」 「・・・では、私は何処を漂っているのでしょう」 腑に落ちきれない私は、たまらず質問を重ねた。 猫は硬い壁をスルリと貫通すると、私の頬に太い尻尾を当てた。 「君はやっぱり気づいてないね」 尻尾の先端は、しっとり濡れている。 「君は泣いているんだよ」 私はゆっくり頬に手を伸ばす。 間違いない。 温かい無色透明な液体が手のひらに粒をつくる。 「これは全部  君だ」 猫は意味深な発言を残し、どこかへ消えてしまった。 パリン 完璧な空間からヒビの音が聞こえたかと思うと、足元から沈んでいく感覚に陥った。 抗わず  その瞬間に身を任せる。 水の中とは思えない空中浮遊  呼吸ができないのに苦しくない  そこでもう一度、あぁ  夢なんだ  と再確認する。 深い深い涙の海に  沈んでいく 沈んでいく間に  さっきのウサギがいた。ドードーがいた。瀕死状態のスミレがいた。猫がいた。 みんなみんな   どこか一点を見つめて泣いている。 声を出さずに  泣いている。 表情を変えず  涙だけを流している。 「・・・どうして泣いてるのですか?」 落ちていきながら聞いても  誰も答えない。 「理由なんてないさ」 意地悪かつ皮肉な声がこだまする。 「君が分からないことは  分からないのさ」 私は・・・・・・   
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