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私はいつの間にか 瓶の中に居た。
狭くもなく広くもない。でも手を伸ばせば 届きそうな壁に なぜか手が届かない。
空を切り取り縫い合わせたようなワンピースに、明らかに私の趣味ではないレースのエプロンがふわりと映える。
「あぁ これは夢の中だ」
一瞬で明晰夢を見抜いた後は、心配事などなかった。
体育座りで身を屈め じっと待つ。
微力ながら、体は何かに漂っているようで、弱々しい浮き沈みをした。現実世界で感じる気持ち悪さも、ここではメリー・ゴーランドの揺れない馬車に乗るくらいなんでもないものだった。
さて 私は何処に居るだろう。
瓶から見える景色は、真夏の太陽のような光の反射と、トプン・・・トプン・・・という波音が混ざり合い、ある時は歪んで ある時は背高のっぽに見える。
一体何が映っているだろう・・・
両手で望遠鏡のように輪っかを作ると、見えるはずもない外の景色を拡大しようとした。
トン・トン・トン・・・ガラスを軽く叩く音がして、私は顔をそちらへ向けた。
「あなたは誰ですか?」
「私はウサギです。他人を大切にしてきたつもりですが、他人の時間と言葉に心惑わせ やがて自分の時間を生きられなくなった ウサギです。」
「そうですか。それはお忙しいですね。」
私の返事に答える暇なく、ピョンピョンと水滴を蹴り上げて行ってしまった。
バシャバシャ・・・せわしく泳ぐ音がして、私は顔をそちらへ向けた。
「あなたは誰ですか?」
「私はドードーです。人間の帽子と人間の服を着て、人間の真似事をしているうちに、自分がどんな種類に属するか分からなくなってしまった ドードーです。」
「そうですか。一緒に考えますか?」
私の返事をかき消すように、翼を大きくはためかせてどこかへ飛んでいった。
キャッキャ ウフフ・・・甲高い賑やかな声がして、私は顔をそちらへ向けた。
「あなたは誰ですか?」
「私達はスミレ。とっても仲良しのスミレなの。あなたは雑草??おお嫌だ。はしたない!!違う品種はお断りなの!」
一方通行の捨て台詞を吐いて、小さな大群は漂っていった。
そして数秒もしないうちに彼女たちは大きな波に呑まれていった。
哀れ・・・私はきっと ひどいくらい冷笑的な表情をしただろう。
「お前は誰だい?」
ニヤリと大きな目が浮かび、鋭い牙が キッと向く。
「あなたは・・・」
「猫さ。猫さ。他のなんでもない猫さ。君が大好きな猫さ。嬉しい時に怒って、苛立つときにゃ大笑い。あべこべひねくれ猫野郎さ。」
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