本物の幽霊(ホラー詩集)より

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彼は怖い話に飢えていた。彼は幽霊に会いたいと思っていた。そしてインタビューするのである。どれほどこの世に未練があって彷徨うのかと言うことをテレビカメラの前で切実と語らせるのである。 彼が不満に思っていたのはどの幽霊ものも現実に晒されていないことであった。暗鬱な湿った場所で呪いをかけるのではお化け屋敷の幽霊と変わらないと思った。 本物の幽霊が欲しいんだよと彼はいつも怒っていた。彼はこれまでに3人殺している。絶対に分からない方法で。あいつらに恨まれてもいいわけなんだが一向に化けて出ない、それが不満だった。幽霊などいないのかと諦めてもいたのである。 彼は取材で恐怖の場所へ行ったことが何度もあったが、一向に姿を表さないのでいつも幽霊役の女優を伴っていた。 どうか俺を憎んで呪い殺してくれと言うのが彼の心からの願望である。実際に死にたかったのである。ただの自殺じゃ面白くも何ともない。彼は劇的な方法で殺されたかった。3人も殺しているんだから誰か化けて出て来いよというのが本音だった。 1人の女性は駅のホームから突き落とし、1人は夜道を背後から首を刺して殺した。最後の1人はSMの女でマゾっけがあったから殺して解体して食べた。結構美人だったが解体すれば美人もクソもないただの肉である。私はホームレスを誘っていい肉があるよと言って骨だけ残して食べたのである。大してうまいものじゃない、下処理をしてないから臭いのである。美人もクソだめも同じかなどと失望した。骨は粉末状に砕いて公園でハトに餌を食わしている爺いに分け与えた。 どうしたら俺を殺してくれるのかといつも願っていた。この世に早くおさらばしたかったのである。親に捨てられ施設で育ち殴られて育った。いいことは一つもなかった。 ある女を恨んで殺そうと思ったが失敗した。その女は中途入社の俺を徹底的にこき使った。だが用心深い女で隙がなかった。 それよりも何よりもいいとこのガキたちを爆弾でバラバラにしたいと言うのが願いだった。恵まれているやつを見ると殺意に心が引き裂かれそうだった。あの小学校の事件のように何人も殺して自殺すると言うのも魅力があったが平凡すぎる。人々が100年は忘れない事件を起こして死にたかった。 あの3人の女は予行練習に過ぎなかった。ああ、死にたい、殺したい、殺してくれで気が変になりかかった。実際もう変だったのであるが。 今日も恐怖現場の取材であった。幽霊役の女が飯を食っていた。おいおい、死ぬ前くらいはむしゃむしゃ食うなよと思っていた。そうである。今夜は本当にこの女を殺そうと思っていたのである。 彼のスタッフの誰もが自分とよく似た人間たちだった。俺たちは本物に会いたい、殺されたいと願っていた。何も知らないのはこの売れない女優だけであった。だが一躍有名になれるのである。感謝しろ。 俺たちは女が登場するシーンで衣服を剥ぎ全裸にしてナイフでつきまくった。腹を刺すと糞尿の匂いがするので避けたかったがスタッフは容赦なかった。全部食い証拠が残らないように油で焼いた。 彼はスタッフにこう言った。「こんな悪行をしてもだよ、俺たちには恐怖もなにもねぇ、吊るし首になるくらいなんだよな」退屈した顔で言った。ああ、ツマラねぇこの世には死ぬ、殺される以上の何かがないのか、もう飽き飽きしているんだよ。 早速事件はちょっとしたニュースになったが彼たちは知らぬ存ぜぬで通した。こんなのニュースでも何でもないだろうと思いながらも取材陣や警察には誠実に対応した。だが人が一人消えている。彼たちに疑惑の目が向けられるのも早かった。 どうでもいいけどね、どうなろうがどうでもいいのだ。死の恐怖とは死に対する恐れがあるからだ。恐れも何もない俺たちに怖いものは何もなかった。 彼は裁判が大嫌いだった、殺すか殺すまいかで大真面目に論議している裁判官が滑稽だった。 彼はある夜、一人で鍋を突いていた。すると鍋の中から女たちの顔がいくつも這い出してきた。何だよ面白いじゃないか、彼はカメラで女たちがズルズルと鍋から湧き上がるのを笑いながら撮っていた。これこそが恐怖ニュースだよ、俺は世界で一番最初にお化けを撮ったんだ。俺は興奮していた。 実は鍋には大量の幻覚植物が混ざっていた。あるスタッフが彼を犯人に仕立て上げようとしていたのだ。そのスタッフとは折り合いが悪くいつも罵り合っていた。自殺で事を済ませようとしていた。彼はゲーゲーと吐きながら夢中で撮っていた。何も映るわけがなかった。そのはずであったが…。 現場に来た警察官がカメラを再生して腰を抜かした。そこにはボロボロの女たちが鮮明に映っていた。他の警察官が退けっと言ってカメラを取り上げた。何も映っていなかった。だが何人もの警察官がゲロを吐き震え上がっていた。 そこへ定年間近の警察官が入ってきた。そして眠そうに言った。 「見えるやつと見えないやつがいるんだなぁ、気持ちの問題だよ。人によるのさ」彼はカメラを取り上げると「いいか、心の問題は科学的に取り上げられない、科学じゃねぇからよ。人が生まれて死ぬ、これこそ怪異じゃねえか、これ以上の恐怖はこの世にあるのか」彼は疲れた口調で言った。彼の5人の子供は3人が死産で1人が妻を殺して狂死し最後の1人が人を殺して自殺した。「ツマラねぇな、どいつもこいつも」その声は誰かの声によく似ていた。
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