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「強引で、不器用で、悪質です」
誤魔化されない。
こっちは命の危険すら感じた。
「そう、それが俺」
「警察に突き出すから」
「ああ、あんたから突き出されるなら本望だ」
「え?」
「どうしても見せたかったんだ、これを」
「……意味がわかりません。わざわざあんな想いをさせて、なんで私をこんなとこに?」
怒り口調で言ったものの、こんな景色を前にしたら、怒る気は驚くほど失せている。
体は夜景へ向けたまま、阿久津さんは顔だけをこちらに向ける。
光に照らされた、潤った瞳。
真剣な表情に私は動きを封じられる。
まっすぐな視線が私を見つめた。
「わからないか?」
「わかるわけ無いじゃないですか」
「そうか」
一見するとワイルドな風貌が目立つが、よく見ると整った繊細な顔立ちをしていることに気づいた。
相も変わらず、街と月は神秘的な光を放ち続けている。
「そうかって……」
肌寒い中、違和感のような熱さが胸から込み上げてきた。
静まった空間は、すぐ近くに彼の声を感じさせる。
理由を焦らしているつもりか、単純に口下手なだけなのか、私にはわからなかった。
「こんなとき、どう伝えればいいんだろうな」
「言っている意味がわかりません」
「だよな、俺はうまく言えない。だから単刀直入に言う」
風が吹き、木々がざわざわと騒いで、また静寂を取り戻す。
阿久津さんはこちらへ向き直り、たった一言だけ力強く言った。
「あんたが、好きだ」
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