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【白黒】
いつも通りに起きて、いつも通りに出勤、いつも通りに笑顔振り撒いて、いつも通りに帰る。
それの繰り返し。
「江口さん、江口優子さん。これデータを確認して印刷しといて」
江口という名字が二人いるため、後から入った私はもっぱらフルネームで呼ばれている。
頼まれる内容を聞いたら、間違われるはずないんだけど。
もう一人の江口さんは歳も遥かに上だし、お局的なベテランで貫禄すらある。
同じ女だと、かなり当たりが強い。独身街道まっしぐら。
彼女の教育はパワハラのライン上ギリギリか、アウトかも。
私は仕事を頼んできた男性に笑顔で「はい、わかりました」と答える。
中身のない笑顔でも、まったく支障はない。
少しだけ残業し、帰る途中にドラッグストアに寄る。ビールと冷凍夜食、簡単なつまみをカゴに入れた途端、エコバッグを忘れたことに肩を落とす。
色……色気のない白黒の毎日。
小さなことへの落胆と残念な晩ごはん。
気づけばもう10月後半だし。冬本番も目の前。またひとりの寒い季節が来る。
今年もインフルエンザや新型コロナが流行るのかなぁ……あ、忘れるとこだった。マスク、マスク。
私は買い置きのマスクがあまり残っていないことを思い出し、売り場のほうへ向かう。
行き慣れた店のため、店員さんより商品の場所は詳しいかも。
そんな優越感、いる?
私がマスクの箱を手を取ったとき、隣に小さな気配があった。
驚いて視線をそちらに向ける。
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