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私の胸より下に頭があった。
綺麗に白髪を整えた、おばあちゃん。
腰を曲げた姿勢で、左手には杖を持ち、しわしわの右手を伸ばそうとした瞬間だったらしい。
「あっ、ごめんなさい。これどうぞ」
私はすぐにマスクの箱をさし出したが、首を横に振って「いいの、いいの。あなたが早かったんだから。気にしないで」おばあちゃんは受け取ろうとしなかった。
「でも……私はまだ家に予備があるから大丈夫です」
出で立ちと化粧、洋服、何よりその表情からおばあちゃんには品があった。
決してブランド物をつけたり、特別いい匂いの香水をつけたりしているわけじゃないが、雰囲気で伝わる。
でも年配にかわりない。
マスクがないことで命取りになるかも。
「遠慮されないで受け取って下さい」
「お嬢さん、ありがとう。いいのよ、いいの。孫のために買おうとしただけだから。私は本当はマスクなんて着けないでもいいの。今つけてるのはマナーのためだから」
「ダメですよ、マスクはちゃんとつけないと……」
その先は言えなかった。
失礼なことをつい口走ったことに後悔した。
おばあちゃんは笑顔を浮かべる。癒される微笑み。
「かわいい顔が台無しよ。そんな顔しないで。私は簡単には死なないの。魔女だから」
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