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【魔女の館】
腕時計を見ると19時半。
おばあちゃんは杖をつきながら、地面を確かめるように歩いた。そのリズムに横を歩きながら、私も合わせる。
世間話をしながら2キロほど行くと、そこにはまさしく魔女の館があった。
薄暗い空に浮かび上がる二階建ての洋館。
大きくはないが、小さくもない。
尖った作りをした屋根にはカラスが数羽止まっている。
洋館を包むように立派な塀がある。
「汚いところだけど、さあ入って」
玄関の大きな扉をおばちゃんが開けると、古い建物特有のきしむ音がした。
私は一礼し、開けてもらった扉を抜ける。
ローズの淡い香りがした。
中は暗いけれど、窓から入る月の光で写し出された内装に息を飲む。
壁紙は華やかなのに落ち着いたペイズリー柄で、見上げると美しいシャンデリアが私を見下ろす。
まったく詳しくないけど、昔のイギリスの雰囲気で博物館であってもおかしくない。
「遠慮しないで奥に」
言われるがまま「お邪魔します」と靴を脱ごうとすると「脱がなくていいのよ、そのまま上がってちょうだい」くすりとおばあちゃんは笑った。
古めかしいテーブルへ座ると「準備するからお待ちなさいね」キッチンへ歩いていく。
私は追いかけて「手伝います」と呟くように言う。
ルビー色の見ていても飽きないほどの綺麗なワインで乾杯をした。
こんなお酒、飲んだことない。
私は美しいボトルとワインを携帯カメラでつい撮す。もったいないぐらい、おいしくて4杯か5杯飲んでしまう。
チーズやハーブや生ハム、あとはよくわからない上品なおつまみの数々。おつまみというには、程遠いかもしれない。
一時間が過ぎたとき、唐突におばあちゃんは言う。
その目には油に包まれたように、光を放っている。
「さて、そろそろ魔法をかけましょうかね」
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