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いやいや、そんな簡単に……切ったら捕まるのは、私のほう。
早く、ばあちゃんギャグでしたって満面の笑みで言ってほしい。
しかし、その言葉は最後まで聞けなかった。
「目をつぶりなさい」
「え?」
矛盾してる。目をつぶったら、ナイフの意味がないじゃない。
考えながらも、ゆっくりと瞼を下ろした自分がいた。
私は平凡すぎる毎日によほど飽き飽きしていたんだろう。無意識に、心の奥のほうで。
今は、怖いもの見たさ、ただそれだけ。
気づいたときには遅かった。
急激な睡魔が私を襲う。
あがいたけれど、すとんと夢の中へ落ちた。
もしかしたら、中に睡眠薬が……
危険と恐怖の渦の中で、水に浮いたかのような気持ちよさ。
こんなにも心地いい眠りはいつぶりだろう。
小学生だった頃、一日中遊び動き回って、何も考えずにぐっすり寝ていた感覚を思い出す。
いつのまにか寝ることさえやらなきゃいけないことになってたんだなぁと、夢の中でぼんやり思っていたときだった。
耳に響く、金属が床に落ちた甲高い音。
無理やり現実に引っ張り出され、目を覚ます。
「え、ここは……」
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