episode.2 奴隷くん

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episode.2 奴隷くん

奴隷生活3日目だった。 奴隷といえど、何をするかといえば部活帰りカバンを持たされる、昼休みジュースを奢らされる、パン買いに行かされる、たまに何故か他の先輩方も一緒になって俺をパシる的な、とはいえイジメとも違うぬるい感じのいじりで、関さんに構われたい俺は心地よかった。 「え、ドM?」 って、細かな報告は(フェラされたなんて言えねえ)出来なかったが、奴隷になったと真琴に報告したところ、そんな冷たい言葉を浴びせられた。 真琴いわく、関さんには根強いファンが居るらしく、2年だけでなく1年、更には3年生にまで奴隷やら奴隷志願者やらが存在しているらしくて、関さんの特別になれたと内心ちょっと嬉しかった俺には、珍しい現象では無いと知って少しがっかりした。 ともあれ今日も部活が終わって、整列気をつけ、礼。あざしたー、なんて体育館に一礼したら、関さんが 「ツッカー俺コーヒー牛乳ね。」 って俺の肩を叩く。 俺の名字は塚元なんだがいつの間にか関さんはツッカーとあだ名を付けていて、先輩方の間にも定着してた。 それで買いに行こうとしたら、俺イチゴミルク俺フルーツ牛乳俺麦茶俺… と声が続々かかるから、聞かないふりをして俺は体育館を出た。そしてコーヒー牛乳を片手に戻ると、関さんが一人で、部室でマンガを読んでいた。 今日は真琴は数学の居残りでおらず、堂島は何処をほっつき歩いてんだか知らないがサボりだった。 関さんがなにかのコミックスから目を上げて、俺に無言で片手を伸ばす。 その手にコーヒー牛乳を乗せながら、「何読んでたんすか」って聞いたら「こ○亀」って言うから俺はかなりツボにはまった。 チューチューとコーヒー牛乳を、爆笑する俺の横ですすりながら、関さんが「腹減った」と言う。 「購買部もう閉まってるしなあ」って笑いを収めて俺が悩むと、「なにかおごれよ奴隷くん」って声が返る。 じゃあどこか行きますか、って二人でマックに行くことになった。 ーーー 北高は山の上にあるんだけど、街へ向かうバスの中でつり革に気だるく掴まった関さんは、ずっと無言だった。 俺も、改めてこの人綺麗だよな、って横顔なんか見てたら無言になってた。 そんなこんなでマク○ナルドに到着した。辺りはもう暗くて、店内は他の高校の奴らとか、ギャルのねーさんとか会社員風の人とか雑多だった。 2階の窓際の席に対面で座って、メガマッ○の包装を指で破き、かぶりついていると関さんが「でけー口」ってちょっと笑った。 腹が減ったと言ってる割には、関さんの食欲は薄いみたいで、しおれたポテトを女の子みたいにもそもそ食ってる。 俺は話題を探して「そういや堂島は今日何してんすかね」って言ってみた。 「知らね」 って関さんがつまらなさそうにしてるので、俺はさらに話題を探して「知らないんすか」って言った。 「あいつがサボりの日何やってるかとか知らねえよ。LINEも何か業務連絡とかそんなん…ほらピクルスやるよ」 って俺に、ハンバーガーから抜いたピクルスをぐいぐい押し付けてくる。い、いらねえ。 「いつも何話してるんすか」 ってなにげに聞いたら、「バスケのこととか」って返ってくる。 「堂島のことあんまり知らねえの?」 不意にぽろっと言ってしまった。 関さんが、ハンバーガーにかぶりつこうとした口を閉じた。一瞬、睨まれる。 「堂島はカレシだよ」 睨んだ目を遠くにそらしながら、関さんが答えた。 俺は妙な好奇心と、今一緒にいられることで堂島への優越感を感じていた。 「関さん」 「あんだよ奴隷」 「寂しいの?」 ……聞いてみた。 関さんが一瞬、ぐっと詰まった気がした。俺はもっと踏み込もうとして、口を開こうとした。 ら。 ばしゃっ。 一瞬何が起きたかわからなかった。 俺は頭から濡れていた。関さんが俺の飲みかけの烏龍茶を(後から考えると関さんの飲んでいたアイスコーヒーをかけられなかっただけ良心的だった)俺の頭に浴びせたんだ。 氷が背中に入ってぞぞぞぞっとして、「ひいい」なんて悶えてる俺に向かって、関さんが一言言った。 「そのままじゃ帰れないだろ。ラブホ行こうぜ。」 ーーー 二人で向かったのは、街のホテル街から少し離れた通りの『ピンク★ナイト』とかいうふざけた名前のホテルだった。 ちょうど季節は冬で、俺たちはコートを着ていたから、私服のふりをしてカバンをコインロッカーに隠してきた。 ホテルの周りには明らかに人工の手の入っていない蔦が生い茂っていたし、中は異様にピンクだし怪しい。 適当にホテルの部屋を関さんが選んで、いちばん風呂のキレイそうなところは…と中くらいに高い部屋を選んだ。 ご宿泊6,000円…って俺が払うんだろうか。安いの高いのどっち? てか、ご宿泊!? 客入りはあまりないらしくて、部屋にたどり着くまでに誰とも会わなかった。 部屋に入って明かりをつけると、ベッドが目の前にあって、ソファとテレビもある。 関さんはあの番組見ねえと、ってテレビに向かい、その途中で備え付けの小さい冷蔵庫を開けた。 俺が背後から覗くと、中にはビールと水が入っていた。 関さんは迷わず細い指をビールに引っ掛け、「奴隷くんの奢りな」って振り返って、ニヤリと笑った。 濡れた制服を脱いでシャワーを浴びている間、全体的に鏡が多い気がする浴室の様子に異常に不安になったり、向こうでテレビを見ている関さんのことや、これからあれそれするんだろうか…と想像したり、俺の思考は混乱した。 身体をやけに丁寧に洗って(特に下半身)備え付けのバスローブを着て部屋に出ると、ビール缶を1缶あけた関さんが、少し赤い顔をして俺を振り返った。 「え、の、飲んじゃったんすか」 って、うろたえた声を出したら、関さんは俺の白いバスローブ姿がいやにおかしいらしくケタケタと声を上げて笑い出した。そしてチャンネルを俺に譲ってくれた。 「シャワー浴びてくる」 一言言い残した関さんの細い背中が浴室に消える。覗こうか覗くまいか、それが問題だ。 …ではなく、俺は聞こえてくるシャワーの音から必死で気をそらそうとテレビを付けた。 すぐにいやらしいAVが映って、びくっとしてチャンネルを変える。 ニュース番組に変えてどきどきした胸を押さえる。 まずい、なんか勃起してきた。
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