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まぐわり屋と帰り道
「三高青春部?何それ」
美咲が部活一覧の紙を見ながら、目を細めて言った。
「気になってさ・・なんだろ??」
「青春部とかって、絶対変なのしかいないって!青春しようぜ!とかマジで言ってるやつやばいよ」
「うーん・・なんか・・気になるなー」
「ほら!帰ろ!まぐわり屋寄ってこーよ」
「あそこ好きだね美咲。美味しいけどさ」
「弥椰が最初に見つけたんじゃん」
「そだっけ?」
神奈川県立横浜第三高校。私はそこの一年生。柊弥椰と言います。以後、お見知り置きくだされば。まぁ・・ごく普通のありふれたどこにでもいる女子高生です。本当、普通。
特にやりたい事があるとか、夢の為にとか。そんな理由でこの学校を選んだ訳じゃぁない。自分の学力で合格出来そうで、尚且つ、家から遠くなく、共学で、修学旅行は海外で、制服がちょい可愛い。そんな理由で選びました。
後悔なんてしてません。だって自分で選んだから。あっち行けば良かったとか、こっちのが楽しそうとかはありますけど。後悔じゃないです。はい。
それと、横浜と言っても、ここはみなとみらいみたいな綺麗な場所じゃありませんよ?普通です。普通。真新しい建物なんか無いし、電車は京浜東北線しか止まりません。あっ京急は急行が停まります。どこかわかった人挙手!
もう入学して2か月が経過しました。その間、特に人生に関わる様な、何か大きなイベントは起きていません。起きる気配も・・ありませんね。
それでいいんです。きっと。あと半年もすればリア充になって、インスタですきぴといいねしあったり、tiktokでバズって有名になったりしてますから。きっと。
「にしても・・駅まで遠いよねー。バス用意して欲しいわ」
この子は河内美咲私共々、末長いご愛顧の程、宜しくお願いします。美咲とは、小五から一緒です。腐れ縁てやつです。
家も近くで、何するにも一緒。たぶん、親より私の好き嫌いを知ってるかもしれません。逆を言えば、私も美咲の色々を知ってたりします。
「ねぇ美咲、部活入らないの?」
美咲は頭はそれほどでもありませんが、運動神経はバツグンなんです。どんなスポーツも卒なくこなし、走る、飛ぶ、投げるぅなんかも得意。なのに中学でもずっと帰宅部でした。もったいない。
「先輩に気使うとか嫌だし。面倒くさい」
そうなんです。かるーいコミュ障。昔からなんです。仲良くなると、良く喋るんですけど・・そこに辿り着くまでが結構長くて。誤解されやすかったりします。でも、とってもいい子ですよ?
「まぁねぇ・・確かに」
かと言って、私も積極的に絡んでいく方じゃないです。待ってしまう方。話しかけられるのを。だって怖いじゃないですか。うざっ!だれっ!とか言われたら。今時の女子高生は怖いんですよ。私も女子高生ですけど。
三高は少し高台に建っていて、登下校の際には坂を登り下りしなきゃいけないんです。下りはいいんですけど、上りがね・・。夏とか最悪です。入学希望してる子!やめときな。悪いこたぁ言わない。
坂を下って駅の方向へ向かう途中、2本目の信号を過ぎたあたりの路地をちょい曲がると、まぐわり屋というたこ焼き屋さんがあります。そこが私達2人の、人生初の行きつけのお店です。
「いらっしゃい!来てくれてありがとねー」
店主は気のいいおばさんです。靖子さんって言います。年齢は秘密ですよ?子供は私達と同じ歳の女の子が一人いるみたいです。会ったことないですけど。
「靖子さーん!いつものふたつー!」
小さなお店です。4人掛けテーブルが2卓、カウンターが6席。小さなテレビの横には達磨さんと招き猫が鎮座してます。メニューは壁に張り出された物以外は受け付けない頑固なお店です。たこ焼き、イカ焼き、焼きそば、お好み焼き(たこ、イカ)、カリカリたこ焼きがあります。来たくなりました?
「やっぱり気になるなー。三高青春部!ねぇ!明日、部室行ってみない??」
「えーやだよ。面倒くさい」
「いいじゃん付き合ってよー!一人は怖い!」
「お化け屋敷じゃないんだから」
「はい!カリカリたこ焼き12個!あとサービスで烏龍茶!」
「わぁー!靖子さんありがとう!」
「うーん!カリカリたこ焼きうまぁー!」
「火傷しないようにね!」
「はーい!」
まぐわり屋で1時間くらい時間を潰して帰る。これがいつもの私たちの定番ルートです。後は駅の向こうへ渡り、数分歩いたらバイバイして帰宅。そんな毎日を送っています。ねっ普通でしょ?
「考えといてね!明日!青春部!」
「あーわかったわかった!行きますよ」
「ひひー。ありがと!また明日ね!」
青春部かぁ。どんな事してるんだろ。男子ばっかりって線も・・。それなら逃げ帰ろうっと。でも凄い事をやろうとしてたりして。青春しようぜ!って。
あなたならどうです?興味ありません?
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