桜枯れた

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一時間もすると飽きっぽい群衆は雲散霧消した。 すると今度は公園の近くに居を構えるホームレスたちがやってきた。 (居を構えるホームレスとは語義矛盾であるが) 「なんてこった。桜の木が枯れてやがる」 「こんな枯れかたはあり得んな。イタズラに決まっている」 「だいたい桜の木が自然に生えてるみたいに思うのが間違い。ソメイヨシノは人の手で接ぎ木しないと絶滅しちまうんだぜ。それが日本の象徴である桜のほんとうの話さ」 ここら一体のホームレスたちのリーダー格であるクラタテツは、みなに缶コーヒーを配った。 「もう四月だが、北国はまだ冷えるのー。東京ではぽかぽかの陽気だと電気屋のテレビでやっていたが、別の国の話みたいじゃった」 「クラタさん、東京行ったことあるんすか。あそこパスポートないと行けないっしょ?」 「ジョニー、なにいってんだよ。東京もここも同じ日本だぜ。ジャパンだよ」 「そういやジャパノミクスとかいう経済政策でみんな景気がよくなるって話しはどうなったんだ?」 クラタテツはホームレスたちが次々に繰り出す話を一括してこう答えた。 「知らん。なんも知らんわ」 クラタテツはホームレスを非ホームレス化するのに貢献している。どこからか木材やらなにやらをあつめてはバラック小屋のようなものを作り、彼らの文化水準向上につとめている。 またこの公園の桜の木を人知れずに世話しているのも彼らである。本来の管理者が木に関して無知であるめ、こっそり彼らに報酬を払い仕事をさせているのだ。 住所こそ役所に登録されていないが、彼らは確かにそこに生きているのである。
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