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丸山町は、どこにでもある町だ。近年の問題は人口流出、雇用、インフラ管理など。どこの町でも問題になっていることではあるが。
町長はサナカタアカキ。年齢は比較的若く「この町が消えないように」を合言葉に当選したが、彼の当選を支えたのはポピュリズム的熱狂ではなく、単に市長や議員のなり手不足によるものである。
口では意識高いことをいいながら旧来のハコモノ行政を包み紙だけ変えて実行する。サナカタアカキとはそれだけの存在であった。
メインストリートの再開発のためと古い店が次々と消えていく丸山通りを走る男がいる。彼の名前はタナカ。タナカは、この町の情報誌「ゆめみらい」の編集をしている。
「ずいぶんなくなった。古着屋も学生ショップも骨董屋さんも楽器屋さんもなくなった。はあ、なんかチカラが出ないな」
タナカは嘆きながら、よたよたと走り抜けた。虚弱体質の彼は、さいきん体力維持のためにジョギングばかりしている。でも町をジョギングするたびに、自分よりもこの町じたいが虚弱体質のように弱っているのを感じてしまう。だいいち静かすぎる。賑わいが、音楽が聞こえてこない。商店街でも有線で音楽を流すのをやめてしまった。原因はクレームか、コストカットか?
「地方から元気を発信する情報誌ゆめみらいか。でも毎回決まった企業の宣伝載せてるだけだしな。なんかおれの仕事って意味あるのかな」
丸山公園まで来て走り疲れたタナカは、そのままへたりこんでしまった。
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