桜枯れた

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そして翌日。タナカはちょっと早めに目を覚ました。目覚ましを止めると冷蔵庫からあの栄養ドリンクを取り出した。 「実はこの栄養ドリンク、箱で買ってるんだけどね。ま、いいか」 栄養ドリンクの薬品くさい味で眠気が取れる。タナカは仕事に行く支度をした。 タナカの住む狭い部屋は、物が少ないのになぜか散らかってみえる。整理整頓は苦手なようだ。 テーブルに置きっぱにしている『アルジャーノンに花束』の文庫本は読みかけだ。タナカはそれを本棚にしまうとレンチンした冷凍ピザを食べた。 職場まで車で一〇分。雑居ビルの二階の狭い部屋がタナカの職場、地方情報誌「ゆめみらい」の編集部だ。 「ゆめみらい」は丸山町とその周辺の地域のグルメ情報や企業の求人情報、イベントや観光案内を扱う雑誌である。近年はインターネットを使った発信にも力を入れていて、ブログやSNSの更新やらなにやら裏方がやることは多い。 同期のオオトリが先に来てさっそくパソコン仕事をしている。オオトリは朝から忙しなくSNSにメール対応に雑誌のレイアウトチェックを同時にしている。 「そんなに欲張って仕事したらバグるぞ。PCも、自分の脳みそも」 過去にパニック障害を発症したことがあるタナカにはオオトリのマルチタスクっぷりが信じられない。しかしそれがオオトリのスタイルなら仕方ないかなとも思っている。 タナカの次にサキが出勤してきた。サキは顔がまるく垂れ目で、いつも笑った顔をしているように見える。口調はいつも淡々としていて変わらない。 「あのラーメン屋さん、期間限定でパパイヤラーメンはじめたらしいですよー。いいですねー」 「こんど地元のラジオ局が新番組はじめるみたいですよ。ひたすら地元の川に密着した企画みたいです。いいですねー」 「私の同級生で、東京でシンガーソングライターやってた子がいるんですが、なぜか地元に帰ってくるみたいです。久々に会えるんでいいですねー」 垂れ目のサキはなんにでも判で押したように「いいですねー」とコメントするのが定番になっているのだ。 そう、今日の話題はサキの同級生のシンガーソングライターの子である。今まで誰も知らなかった話なので盛り上がった。 編集長のステファニー・トミサワはこう言った。 「もしー、差し支えがなかったら、うちでインタビュー載せたいよねー。で、なんで地元に帰ってくるの?歌手引退とか?」 「引退じゃないみたいです。なんか歌手として路線変更してローカルアイドルになるとかなんとか……」 「アイドル??つーか何歳よ、その娘。サキちゃんと同い年だから……」 遠慮を知らないオオトリが話に割り込んできた。 「アラ、サー?」
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