喰らう

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 精神科に移っても水本は個室であった。他の患者は処方された薬さえ飲めば一般人と変わらなかったが、水本が正気に戻る薬はなく危なくなった際に強い睡眠薬を打つ以外の処置は殆ど出来ないでいた。  壁にはノシイカの様になった金魚の潰れた模様が無数に広がっていた。生臭い匂いの原因はそれだけでは無い。窓の縁には動物の首が並べられていた。  まるで自らの狩った獲物を見せびらかせるように並べられたそれらは、コレクションなどでは無く血を啜った後の残骸であり、間違いなく獲物なのであった。 「水本さん。今日も検診とお薬の時間ですよ」  今日もマスクを被り防護服に包まれた看護師はやって来た。日に二度やって来る看護師はただ水本に睡眠薬と言う名の薬を飲ませるだけであった。  眠らせてしまえば何処かに行ってしまう頻度も下がった為であるが、結局他に手が無いのが今の現状である。部屋の問題であると思われたが、部屋を移っても未だに物が増える事に、医師も看護師も注視するしか出来ないでいた。  部屋が変わり暫くしたが、逃げ出したその瞬間を見た者もおらず、未だにどうやって部屋に物を持ちこんでいるか解らないでいた。不気味な物は幾ら片付けても何処からか持ち込むためキリが無かった。  片付ける者の負担も考え、個人情報のことも有ったが話し合いの結果、仕方なく水本の部屋には監視カメラをつける事となった。
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