喰らう

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 しかし、その噂もあながち間違いでは無いのだと思わされる出来事が続く事となった。 「水本さん検診のお時間ですよ。今日は珍しく起きてるんですね」  あの監視カメラ以降は、看護師が一人の時には何かが起こるのかも知れないという結果になり看護師と医師の二人か、看護師が二人で来る事になっていた。  拘束具を着たまま座った状態になっていた水本の目には、すでに意思と言うものは感じられず、まるで此処から出られない事を良くも悪くも思っておらず、自らを俯瞰するような表情のまま正面の壁を一点に見つめていた。 「今日はご飯最後まで食べて下さいね。途中で吐くのも無しですよ」  最近はずっと今の様な状態であるが、食事は殆ど食べる気配はなかった。ただ、無理に口に入れれば看護師に吹き返したり、時折奇声を放つのが今の水本である。 「それにしても先生。水本さん殆ど食事取ってませんが大丈夫なんでしょうか」 「それね。本当にこの患者さん全然問題ない様に見えるんだよね。普通だとすでに栄養失調状態に陥ってるはずなんだが、彼に問題は見受けられない。それより私が気になるのは彼の痣の方だよ」  そう言い、日に日に増えていった水本の体の痣を確かめていた。何もしていないのに腕はまだら模様に青く変色し、それを今は顔を含み全身を覆っていた。
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