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人外
煤と炎の熱で境内のさらに奥にそびえ立つ寺中の中では、汗にまみれながら護摩行が行われていた。響くような経は反響し合う事で言霊と呼ばれるものが体中で感じる様であった。
「先生!やはり病気と言う範疇を超えてしまったようです。お力をお借りしたいのです。どうにか患者さんを救ってやってください」
「ようこんな山ん中まで来なすったな。それで、憑き物のお人とは何処に?」
護摩行を止め振り返ったこの寺の主は、汗にまみれていたのもさる事ながらその顔の傷がどうしても目についた。頭頂部から左目にかけてまるで焼けただれた様な火傷の跡が見て取れた。
「此方で御座います。名を水本さんと言いまして、通常の医療ではもう施す手も無い次第でして」
境内に停まっている救急車から、救急隊員が拘束具で暴れないようにしたままの水本をタンカーで運び、タンカーから水本を降ろすことなく、縛ったまま寺内の床に寝かせた。
「魔障かぇ?憑かれてるんか、いや憑けたんか?何やあんまり見た事無い憑物やなぁ」
新しい玩具でも見つけたかのようにマジマジと水本を観察し、その周りをまわりながら札を貼って行く。九字を切りながら、水本に対して効き目があるのかをまるで試す様に様子を窺っていた。
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