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水本はうねり声を上げながら裂けた口から涎を流していた。人とは思えぬその出で立ちと所業に普通であれば慄く様子であったが、先生と呼ばれたこの寺の主人は気にした風もなく連れてきた医師に話しかけた。
「あきませんねぇ。もう障ってますから、人の形はしてますが魔の者ですわ」
「ではもうこの水本さんは助からないと、和尚様何とかなりませんか?除霊できる伝手何て此処しか知りませんので」
「まぁ早合点はいかんよ。何事もやってみてからや」
そう言うと和尚は護摩行をいつも行っている席に再びついた。念仏を唱えながら先程と同じように汗が噴き出しているのが見て取れた。顔は穏やかであったが目は底の見えぬ湖の様に真っ黒である。
札に囲われた水本が暴れ出していた。しかし、先程和尚が札を貼り着けた事で結界が出来ている様で、もがき苦しみ拘束具も引きちぎられたが畳一畳分のスペースからは身動きが取れないでいた。
医師は、水本に対しどういう処置も出来ない事で頭を抱えた状態で居る所を、突然現れた一人の虚無僧に声を掛けられたのを思い出していた。
病院の中に突然現れたその虚無僧は”この病院は魔物がついているかもしれぬ”と言い、もし何か起これば此処に連絡するようにメモを残されたのだった。
ゆえに、医師にとってもこんなカルトじみた儀式を目の当たりにしたのは初めてであった。
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