喰らう

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 本心では戻りたくはなかった。しかし、遭難してしまった今となってはあのリュックだけが水本の生命線である。食料も水筒もあのリュックの中である。 「嫌だ。嫌だけど、、、、、、、クソ!!」  朝まで待とうかとも思ったが一気に走り抜けて来た為、すぐにでも戻らなければ来た道を再び見失ってしまうかもしれないと言う不安も湧き起っていた。  慎重に進みながら元来た道を戻る。緊張からか全身が痺れる様に冷たくなり、汗が止めどなく噴き出した。小刻みに震えだした膝を押さえつけるようにしながらゆっくりと進む。 「嘘だろ!足が言う事が利かない!!」  足の痺れは腰までやって来ると、体の自由を奪うかのように水本を立ち尽くさせた。動けなくなったと同時に、段々とそれを感じるようになった。 「何だこの匂い、サケカナニカカ?」  舌も縺れる。しかし正確には、既にあの化け物と出会った瞬間から舌は縺れていた。崩れ始めた思考に何も感じ無くなりそうになった。揺らぐ視界のその先で再び戦慄が現れた。 「化けモゴォ、死んでいりゅあぁ」  どうしてこうなったのか皆目見当もつかなかった。目の前には確かに化け物の死骸らしき物があった。そして、それは動く事も無さそうに薄紫色の血液らしき物を流しながら微動だにしなかった。  しかし、確実に水本の思考と体は壊れ始めていた。自分の目から涙が伝うのを感じ、口元からはだらしなく涎が零れていたが自分の意思ではどうする事も出来なかった。
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