バカって言わないでください

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「この子、木刀を握ったことすらないんです。お願いできますか?」  吉村貫一郎さんと自己紹介してくれて、少し皺の多い優しい顔のまま、なぜそんな者が新選組に? というような表情になりつつも、二つ返事で快諾してくれた。  けれどわたしはつい、沖田くんを見上げる。 「私はダメですよ。優しくできないから」  優しくする気もないってことですよね。  ねぇ、沖田くんってエスパー?  入隊試験では気配消して瞬間移動するし、わたしが触れる前に察知するし、今だって、沖田くんが教えてくれるんじゃないの? っていう心読まれたし。 「沖田さんはいつもニコニコ朗らかなのに、稽古となると手加減というものをなさいませんからねぇ。宮本さん倒れちゃいますよ」  ニコニコ……! ほ、朗らか……!?  わたしの前ではその片鱗すらありませんが。  沖田くんはひたすら素振りする皆さんの方に行ってしまった。  皆さんを指導する立場、なのかな? 確かさっき先生って呼んでる人もいた。  え、それより何? あの素振り。  木刀をお尻に付くぐらいまで振りかぶってから、木刀の先が足元に付くぐらいまで振り下ろしてる。あれが大素振り……ものすごい疲れそう。というか、あんな重いモノであんな動きするなんて、一回もできなさそう。持つだけでプルプルなのに。  それどころか、次は多分、跳躍早素振りというものが始まった。  読んで字の如く、前後に飛び跳ねながらありえない速さで素振りしてる。これはもっと、できる気がしない。
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