バカって言わないでください

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「では、足捌きから稽古しましょう」  えっ? 木刀の持ち方ではなくって? 「摺り足、という足運びをします。右足を動かす時は地と足裏の間に紙一枚挟んでいるような意識で、左足はこう、右よりも半歩引いて踵を立てておきます」  へえぇ、剣道なんてちゃんと見たことないから知らなかった。自由に立って歩いて走ってるわけじゃなくて、型が決まってるんだ。 「相手の隙を見て好機となればすぐに飛び出せるようにですよ。立ち合い中に打ち込む時には左足で地を蹴って、右足で強く踏み込みます」  なるほど! クラウチングスタートみたいなもの? あと、道場から聞こえていた地団駄は踏み込みの音だったんだ。 「まずは一歩ずつ、摺り足で進むところからです」  わたしは都度 「はいっ」 と返事をしながら、いちいち感心していた。  吉村さんはわたしの少し前を進んでくれて、それを見本にひたすら付いて行く。  床スレスレしか右足を上げずに一歩前へ進み、すぐに左足も進ませる。踵はあげたままで、キュッと止める。  床に付く程長い袴をやっぱり両手で持ち上げて進むけど、吉村さんも敢えて足元が見えやすいように同じく裾を持ち上げながら、ずっと付き合ってくれた。  やっとけ、って放っておくこともできるのに。  わたしがドレス歩きスタイルをしているのはすごい滑稽だったけど、吉村さんの動きはキビキビしていてむしろかっこいい。  上半身を上下に弾まさないように進むんだなぁ、とか、吉村さんが見せてくれているおかげで気付ける部分もたくさんあった。 「掛かり稽古、始め!」  道場の中央で沖田くんの号令が響くと、二人一組になって一方はひたすら受け、もう一方のひとは全く切れ間なく打ち込みまくり始めた。大袈裟ではなく、一瞬も動きを止めない。  気合の入った大声を上げながら、いろんな技を出してるんだと思うけど、早すぎてどこを打ってるのかわからない。
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