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グラスを洗うのは浅野くんに任せて、わたしは会議室のゴミの分別と掃除を済ませた。
「浅野くん、洗い物終わった?」
給湯室をのぞくと、あと少しで終わりそうなところだった。
「そういえば、北川さんの引継書に不可解な書き込みがあったんですけど、どうして三浦さんに給湯室での洗い物をさせてはいけないんです?」
腕まくりをしてせっせとグラスを洗う浅野くんが、こっちに顔を向ける。
「それはねえ、わたしがここでマグカップを割って、指が血だらけになって、しばらくキーボード打てなくなったからだよう」
「はあっ?なんですかそれ!?」
浅野くんが驚いた顔をしている。
去年の出来事が鮮明に蘇ってくる。
ここで恭平さんのことを突き飛ばして、マグカップの破片で指を切って、大っ嫌い!って言ったんだよね。
クリスマスの鈴の音色とともに始まった恋だった。
給湯室の棚に並んでいるアフタヌーンティーのマグカップに視線を移す。
恭平さんにプレゼントされたものだ。
今年は、わたしからもクリスマスプレゼントを用意してあるんだけど…いつ渡せるだろう…。
考え込んでいたところに浅野くんの声が聞こえて引き戻された。
「じゃあ、フロアの鍵を扱わせてはいけないっていうのは?」
「あれはね…嘘つきが左遷されるからだよう」
浅野くんが水を止めた。
「意味が良くわかりません」
「んふふっ、それはねえ…」
そのとき、後ろから声がした。
「お疲れ様。楽しそうだね」
――― っ!?
それは、わたしの大好きな低く落ち着いた声で……。
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