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トイレに座って気持ちが落ち着くのを待った。
涙はまだ出ない。
こういう時はたいてい、お風呂に入るころに悔しさがこみあげてきて、あのときああ言い返してやればよかったとか、あいつ車に轢かれればいいのにとか、ハゲろとか、呪詛の言葉を吐き散らしながら風呂場でわーわー泣くのだ。
今夜もそうなるだろう。
どれぐらいトイレに籠っていたのかよくわからない。
3分だったかもしれないし、30分だったかもしれない。
下田さんはトイレまでは追いかけてこなかった。
きっとわたしのかわりに北川さんに非礼を詫びて、プリンターのメーカーさんに修理の依頼をしてくれているのだろう。
行かなきゃ……。
立ち上がってトイレを出た。
給湯室の前を通ったときに、久しぶりにコーヒーでも飲みながら仕事をしようかと思い立って立ち寄った。
財務部に来てから、コーヒーを淹れる余裕すらなかったことに気づいた。
異動してきたときに、給湯室の棚に自分のマグカップなら置いていた。
それを棚から取り出して、久しぶりに使うから一旦洗うことにして、スポンジに洗剤をつけてキュッキュ…―――っ!?
突然、マグカップを持っていた左腕を掴まれ、見上げるとすごく怖い顔をした北川さんがいて……わたしは驚いてマグカップを落としてしまった。
ガシャリ!と嫌な音がして、わたしの足元でマグカップが無残に割れて転がっていた。
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