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「誰のカップを洗ってた?」
北川さんが普段よりも低い声で呻くように言う。
「……え?」
「このマグカップは誰のものだって聞いているんだ」
なんでこんな風に詰問されないといけないんだろうか。
「わたしのですけど」
北川さんはそれを聞くとようやく力を抜いて、「ごめん。弁償するから」と言いながらしゃがんだ。
割れたカップの欠片を拾い集める北川さんに無性に腹が立ってきて、わたしは体をかがめると北川さんの肩を突き飛ばした。
「うわっ」
尻もちをついた北川さんの手から、欠片をひったくった。
そのときに痛みが走り、指が切れたのがわかったけど、かまやしない。
「セミナーあるんでしょ。早く行ってください。魔女のせいで指が切れたとか、セミナー遅刻したとか、また妙な言いがかりつけられたら、たまらない」
言いながら切れている右手を後ろに隠した。
「北川さんがどうしてそんなに私のことを嫌っているのかわからないけど、わたしだって北川さんのこと、大っ嫌いですから!」
北川さんは困ったように笑って立ち上がった。
「じゃあ、片付け頼むね。手を切らないように気をつけろよ。歓迎会、遅れないように。待ってるから」
北川さんの靴音が聞こえなくなるまでじっとしていた。
手を切らないようにだと?もう切れてるっつーの!
待ってるだと?大っ嫌いだっつーの!
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