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割れたカップの破片で切れた右手中指と薬指の傷はそれほど深くはなかったけれど、止血には少々時間がかかった。
幸いなことに給湯室の棚や引き出しをあさっていたら絆創膏を見つけて、それを巻きつけ、カップをきれいに片付けた。
フロアに戻ると、下田さんに頭を下げた。
「嫌な態度をとって、逃げ出して、すみませんでした。でもプリンターを壊したと決めつけられるのは心外です」
下田さんは苦笑して、こっちこそごめんねと言ってくれた。
「プリンターを誰が壊したかとか、それを謝罪して回るとか、そんなのどうでもいいから、早く修理の依頼をしてくれって北川くんに怒られちゃった。修理の手配しておいたから、安心して」
「ありがとうございます」
わたしは再び頭を下げた。
わたしもプリンターごときで大声出したり、北川さんに八つ当たりしたり、大人げなかったな…。
なんだかすっかり意気消沈してしまったのと、右手の指の出血は止まっているものの、キーを打つたびにズキズキ痛むこともあって、データ入力はちっともはかどらなかった。
定時になっても終わらないままで、下田さんのヤキモキした視線を痛いほど感じ始めた。
部内の忘年会は庶務担当が幹事を務めているため、下田さんは早めにお店に行って確認やらなんやら、しないといけないことがあるらしい。
本来ならば、わたしもそれに同行してお手伝いしないといけなかったのだけど、無理だ。
「下田さん、先に行っててください。18時半からですよね?あと少しで終わるので、それまでには余裕で間に合いますから」
「お店の場所わかる?」
「大丈夫です。地図アプリ見ながら行きますから」
拳をグッと握って大丈夫アピールすると、下田さんは少しホッとしたような顔になった。
「じゃあ、先に行ってるね」
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