恋の音色が聞こえるか

魔女ですが、何か？

「俺をそそのかそうとしても無駄だ…魔女め」

　北川さん、目がコワイです…。

　北川さんの同期の時任さんが年明けに結婚するらしい。
　お相手は、わたしが入社間もない新人時代に同じ部署にいた小野あきらさん。

　うちの会社の元社員による物騒な傷害事件が起きたのが今年の10月。ふたりはその頃付き合い始めたばかりで、事件の被害者となったことで絆を深めてあっという間にプロポーズ→結婚となったんだとか。

　社内でたまに見かける時任さんは、それはもう幸せ全開オーラを放ちまくってて、ただでさえ素敵だった笑顔が３割増し…いや５割？いやいや、10割増し！？の大盤振る舞いで、まともな感覚の女子ならだれでも、あの笑顔に見惚れちゃうと思う。

　北川さんはハッキリとは言わないけど、これまでの彼の言動でわたしは気づいている。
　以前チラっと言っていた、北川さんが「２回フラれた」相手が、小野さんだって。
　そして、もうすぐ人妻になろうとしているあの人のことを今でも好きなんだってことも。

　北川さんの心を弄んで、時任さんからは溺愛されてあの素敵な笑顔を独り占めしてるだなんて、ナニソレ。羨ましすぎる。

　それに、時任さんのことは、わたしのほうが先に好きだったのにー！

　時任さんに告白しようとして、なぜか手で口を塞がれてしまい、思いを伝えることすら拒否されて冷めてしまった恋だった。
　もしも、あのときの告白が上手くいっていたら…あるいは、あのとき気持ちが冷めないままずっと慕い続けてもう一度アタックしていたら、今頃はわたしが……。
　そう考えたときに、心の奥で何かがゾワリと動いた気がした。