魔女の本領発揮

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 くつくつ笑う北川さんに尋ねる。 「北川さんが持ってきた紙、わたしの倉庫行きの辞令じゃないんですか?」 「何言ってんの、あれは総務からもらってきた昨晩のこのフロアの入退室記録だよ。社員証を持っていると本社ビル内の行動記録が残るんだよね。知らない社員多いけど」  うん、わたしも知らなかった。  北川さんの説明によれば、昨晩、わたしがちゃんと電気を消して、鍵を閉めてここを出た後、このフロアに戻ってきた人がいたっていう訳だ。  それが、いま部長に頭を下げている経理課の課長だったってことが、入退室記録にしっかり『12月23日、21時32分入室 課長の社員番号』『12月23日、21時38分退室』って残っていたらしい。  フロアの鍵は、総務部が一括して持っているスペアのほかに、朝イチで来た人が守衛室から受け取り、最後に出る人が鍵を閉めてまた守衛室に戻す普段使いのものが1本と、それ以外に非常時用に部長または課長が持ち歩いていいとされている鍵が1本の合計3本あるらしい。  財務部の鍵は、経理課の課長が管理していることが多いらしくて、昨日は忘年会のあとに忘れ物でも取りに来たんじゃないかと北川さんは説明してくれた。  そのときにお酒が入っていたこともあり、おそらくそれ以外にもフロアを出ようとしたところで電話がかかってきたとか、何か気がそれてしまうようなことがあったのだろうと。  そのせいでうっかり、電気つけっぱ、鍵あけっぱで帰ってしまったんじゃないかと。    もし北川さんが総務からその記録を持って来てくれなかったら、わたしは身に覚えのない濡れ衣を着せられたままだったってことだよね?  あのオッサン、課長のくせに自分から名乗り出ようともせずに、わたしがみんなから責められているのを黙って見てたってことだよね?  腹立つわ~~~! 「左遷されろ」  低い声でつぶやくと、また北川さんが笑った。 「間違いなく、次の異動で財務部(うち)からはいなくなるだろうね」  それよりさあ、と北川さんは明るい声で言った。 「はい、これ今日の分、頑張ってね」  いつものデータ入力用の書類をわたしの机にどっさり置いて、北川さんは自分の仕事に戻っていった。  助けてくれたことには感謝してるけど…やっぱり、大っ嫌い! 
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